Yes熱冷めやらず。私の中で最近Yesが再燃している。
ということで先日の「Close To The Edge」に引き続き、今回は「Fragile」のUKオリジナル盤とCDを聴き比べしてみたいと思う。なお、今回はハイレゾCDではなくノーマルの2003年リイシュー盤との比較だ。若干CDにハンデがあるがご容赦いただきたい。
なお、使用する機材はいつもの使用機材である。今回もCD再生はSACD対応が必要ないのでMarantzのスイングアームを使い、よりレコードプレイヤーに近いような環境で聴き比べてみた。
Yesと私の出会い
本題に入る前にちょっとだけ駄話を。私とYesの出会いについてだ。
私がこのアルバム、さらにいうとYesというバンドを知ることができたのは20数年前にみたヴィンセント・ギャロの映画「バッファロー’66」のおかげである。
ギャロの見た目のかっこよさもよかったし、クリスティーナ・リッチのかわいさにもやられた。ストーリーはなんともとらえどころのない、まぁB級と言って過言ではない内容だが、90年代末期の若かった私はこの映画全体のもつ雰囲気にとても惹かれた。そして、この映画で一番の盛り上がりのシーンで使われるのがYesの「Heart Of Sunrise」。これが私とYesの出会いである。狂気混じりの演技を見せる赤いブーツのギャロ、流れるBGM。たまらなくかっこよかった。
アルバムの概要
1971年11月26日にアトランティックレコードからリリースされたYesの4thアルバム「Fragile」は、プログレッシブ・ロック史に燦然と輝く金字塔的作品だ。このアルバムは、バンドの代表曲「Roundabout」を含み、Yesの音楽性が大きく飛躍した転換点となった作品でもある。
今回取り上げるアルバム「Fragile」(邦題:こわれもの)は、4曲のバンド全体での演奏と、5曲の各メンバーによるソロ作品で構成されている。この独特な構成は、新加入したリック・ウェイクマンの才能を最大限に活かしつつ、バンドの総合力も示す巧妙な戦略だった。
Fragile」制作時のYesのメンバーは以下の通り:
- ジョン・アンダーソン (ボーカル)
- スティーブ・ハウ (ギター、ボーカル)
- リック・ウェイクマン (キーボード)
- クリス・スクワイア (ベース、ボーカル)
- ビル・ブラッフォード (ドラムス、パーカッション)
リック・ウェイクマンの加入は、Yesの音楽に革命的な変化をもたらした。ウェイクマンの多彩なキーボードテクニックと音色選択は、バンドのサウンドに新たな次元をもたらした。特に、以下の点でウェイクマンの影響が顕著だった:
- 音色の多様性: ウェイクマンは、ハープシコードから電子ピアノ、オルガン、メロトロン、ミニムーグシンセサイザーまで、幅広い鍵盤楽器を駆使した。これにより、Yesの音楽はより豊かで立体的になった。
- クラシックの影響: クラシックの訓練を受けていたウェイクマンは、その知識と技術をプログレッシブ・ロックに融合させた。これにより、Yesの音楽はより複雑で洗練されたものになった。ちなみに本作でもブラームスの交響曲第4番第3楽章をそのまんま組み入れている(「CANS AND BRAHMS」)
- 即興演奏の要素: ウェイクマンの即興演奏能力は、Yesのライブパフォーマンスに新たな魅力を加えた。これにより、スタジオ録音とは異なる、より自由で活気のあるライブサウンドが生まれた。
- 作曲への貢献: ウェイクマンは単なるセッションミュージシャンではなく、バンドの作曲プロセスに積極的に参加した。彼のアイデアと創造性は、Yesの楽曲構造をより複雑で野心的なものにした。
スティーブ・ハウは、ウェイクマンがYesにもたらした影響について次のように述べている:「彼のクラシックの訓練と真面目な一面は、彼の酒好きや陽気な性格とは対照的だった。私たちはより内向的で真面目だったが、リックには軽やかさがあった。私たちは彼に、ハープシコードからミニモーグまで、あらゆる種類のキーボードを弾いてもらいたかったし、彼もそうだった。私たちは、ブルースがロックに溢れ出るのを避けたかった。」1。
アルバムの評価と商業的成功
「Fragile」は、リリース当時から高い評価を受け、商業的にも大成功を収めた。米国のビルボードチャートで4位、英国のアルバムチャートで7位を記録し、最終的に200万枚以上のセールスを達成した2。
1972年3月には米国レコード協会(RIAA)からゴールドディスク認定を受け、1998年にはダブルプラチナディスク(200万枚以上の売上)を達成している3。
音楽評論家からも絶賛され、Circus誌のEd Kehellerは「Fragileは間違いなく彼らの最も結束力があり、勇敢な取り組みだ」と評している4。
UKオリジナル盤レコードのスペック
さて、それではUKオリジナル盤のレコードを見ていこう。
UKオリジナル盤レコードのマトリクス番号は以下の通り:
- Matrix / Runout (Runout Side A, variant 1): 2401019 A//1
- Matrix / Runout (Runout Side B, variant 1): 2401019 B//1
マト盤以降に数字が羅列していたり、▽記号が入っていたりといろいろなVerがあるが、ここでは気にしない。おそらくスタンパーや工場の違いだと思う。そのへんは「初盤道」さんにお任せである。
なお、コンディションはEX、購入時の値段は15,000円くらい、2019年頃購入したと思う。
レコードで聴いた音質
さて、UKオリジナル盤レコードで「Fragile」を聴くと、以下のような特徴が際立つ:
- 広大な音場感: アナログレコードならではの立体的な音の広がりが感じられる。特に「Roundabout」のオープニングのアコースティックギターは、まるでスタジオにいるかのような臨場感がある。音の定位が明確で、各楽器の位置関係が把握しやすい。
- 温かみのある音質: レコード特有の温かみのある音色で再現されている。特にクリス・スクワイアのベースが豊かで全面に出てくる。ベースの低音は丸みを帯びつつも、しっかりとした芯のある音で、楽曲全体を支える基盤となっている。かなりゴリゴリと表に出てくるベース音だが、耳に痛いようなものではない。
- 繊細なダイナミクス: 「South Side of the Sky」のピアノパートなど、静かな部分から力強い部分までの音のグラデーションが滑らかだ。特に静寂から急激に音量が上がる部分での音の立ち上がりが自然で、音楽の起伏を忠実に再現している。
- 中低域のバランス: 全体的に中低域が豊かで、バンドの演奏の厚みが感じられる。特にドラムスの音色が自然で、キックの低音からスネアの中音域まで、バランスよく再現されている。
- 高域の艶やかさ: シンバルやハイハットの音色が艶やかで、キンキンとした耳障りな音ではなく、空気感を伴った自然な響きを持っている。ザ・アナログとでもいおうか。控えめできれいな高音だ。
CDで聴いた音質
さて続いてはCDに移ろう。
ちなみに購入は480円。最近だ。できればSACDを購入したかったのだが売っていなかった。手に入れることがあればそのときにまたレビューしたい。
さて、2003年にリリースされたリマスター版CDで聴くと、以下のような特徴がある:
- 高域の明瞭度: デジタル録音の特性を活かし、高音域がクリアに再現されている。特にスティーブ・ハウのギターソロの繊細なニュアンスが鮮明に聴き取れる。ハーモニクスやカッティングの細かい音まで明確に分離して聴こえる。クラシックギターの再現度が比較的高いと思う。
- 音の輪郭: 各楽器の音の輪郭がくっきりしており、複雑な演奏パートの分離感が優れている。特に「Heart of the Sunrise」のような複雑な構成の楽曲で、各楽器の動きが明確に把握できる。
- ダイナミックレンジ: 「Heart of the Sunrise」のような劇的な展開を持つ楽曲で、音の強弱の幅が少しせまく感じられる。静寂のパートから壮大なクライマックスまで、音量の変化が滑らかで、音楽の起伏を忠実に再現している点は素晴らしい。
- 全体的な音圧: アナログ盤に比べて全体的に音圧がやさしい。弱い、まではいかないが、迫力のあるサウンドかといわれると、このへんはデジタル独特の押しの弱さを感じる。特にドラムスの打撃音やベースの低音が力強く再現されているが、押し出しはまずまず。
- 低域の明瞭さ: ベースやキックドラムの低音が明瞭で、レコードよりも輪郭がはっきりしている。特にクリス・スクワイアの複雑なベースラインが、より明確に聴き取れる。
- 空間表現: ステレオイメージが広く、各楽器の定位が明確だ。特に「Roundabout」のようなステレオ効果を多用した楽曲で、その効果が顕著に感じられる。
総評
結論:UKオリジナル盤の勝利だ。
レコードはアナログならではの温かみと広がりのある音場が魅力だ。特に「Roundabout」のオープニングや「South Side of the Sky」の繊細なピアノパートなど、楽器の質感や空気感を味わうには最適だ。このへんはさすがオリジナル盤、文句のつけようがない。当時できることをすべて詰め込んだ、最高音質の1枚だと思う。
一方、CDも決してだめなのではない。CDは細部の音の再現性に優れ、複雑な楽器構成を明瞭に聴き分けられる。「Long Distance Runaround」のリズムセクションの絡み合いや、「Heart of the Sunrise」の劇的な展開など、技巧的な演奏を分析的に聴くには適している。そう、分析するには最適なのだが、音圧や各楽器の温度感など、「鑑賞」目的で比較するとどうしてもアナログには劣る。比較しなければ全然CDでいいんだけどね。くらべちゃうとそりゃあ違いますよ、と。
個人的にはアルバムの最後を飾る「Heart of Sunrise」、この曲に関して言えばレコード一択だ。あまり歪んだ音をアナログ盤で聞くのは好きではないのだが、この曲だけはレコードで大音量でゴリゴリとまさに「溝を掘る」というイメージで聞きたい。イントロのギターユニゾン、間奏のベースのゴリッとしたフレーズ、たまらない。
UKオリジナル盤レコードやCDなど、それぞれの媒体で異なる魅力がある。なによりCDは安い。価格差を考えればCDだって全然ありですよ。悪いんじゃないのだ、レコードが良すぎるのだ。
もちろんどちらが優れているかは最終的に個人の好みによるが、両方のフォーマットで聴くことで、「Fragile」の多面的な魅力を堪能できることはたしかだ。盤をひっくり返さない=この壮大な組曲をひと続きで聞けることも大きな魅力だ。
このアルバムは単なる音楽作品を超えて、70年代初頭の革新的な音楽性と録音技術の結晶として、音楽史に深く刻まれている名作なのだ。是非とも聞いてみてもらいたい。
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