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Somewhere (Live in Lucerne 2009) / Keith Jarret, Gary Peacock, Jack Dejohnette

JAZZ

キース・ジャレットをBGMにする失礼をお許しください・・・

突然だが、仕事中に集中したい時はヘッドフォンで音楽を聴く、という方も多いのではないだろうか?

私もその口で、できればボーカル(歌詞)のないクラシックやジャズをBGMに仕事をする派である。

ジャズに関して言えば、できればピアノソロかピアノトリオが仕事中は好ましく思う。ペットやサックスの豪快なブロウを楽しみたいのは山々なのだが、特にホーンは人間の声質と音質が被っていてどうにも集中力が削がれるように感じる。また大編成のバンドものは正直うるさい。集中というところでは不適である。

クラシックならばピアノソナタ、ないしはヴァイオリンソナタ、弦楽四重奏なんかもいい。近頃はモーツァルトの弦楽四重奏に少しハマり始めているのだが、その話はまた今度。

さて、本日ご紹介するのはそんな仕事中のBGM、最近の私の心のベストワン、キース・ジャレット・トリオのライブ盤「Somewhere」だ。

Somewhere

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2003年に結成20周年を迎えたキース・ジャレット・トリオ、通称「スタンダード・トリオ」としてよく知られているこのトリオが2013年の結成30周年の際に発表した、2009年のライブである。(ややこしい)

このトリオ、2003年の20周年でアルバム「Up For It」を発表して以降、10年間音沙汰(新作発表)がなかった。ファンの間では「空白の10年」なんていう呼び方もされているようだが、ライブ自体はたまにやっていたようで、本作もその空白の10年内に行われたライブである。

メンバーはご存知であろうが一応記載しておく。

Keith Jarrett (p)
Gary Peacock (b)
Jack DeJohnette (ds)

ルツェルンといえばクラシックの大家ワーグナーやラフマニノフが住んでいた街として、そして毎年夏に開催されるルツェルン音楽祭が有名な音楽の街である。その影響かどうかわからないが、本作は通常のCDにも関わらず大変録音状態が素晴らしい。さすがECMというべきか。レコードでなくてもここまで空気感を閉じ込めた録音というのはそうそうないものだ。

もちろん、ECM不朽の名作にしてキース・ジャレットの最高傑作といえばやはりこの作品。

これに負けずとも劣らない録音技術の高さである。

さて、演奏であるが、まずはセットリスト。

1 Deep Space / Solar
2 Stars Fell On Alabama
3 Between Devil And The Deep Blue Sea
4 Somewhere / Everywhere
5 Tonight
6 I Thought About You

ルツェルン、だからなのかバーンスタインの「#4 Somewhere」「#5 Tonight」を取り上げているところは面白い。後半を除いて、だいたいメドレーで2曲を繋いで1つの楽曲にしている。

それでは1曲づつ見ていこう。

#1 Deep Space / Solar

原曲となる「Solar」(マイルス・デイヴィス)自体がそもそもあって、そのメロディをキースが超絶なインプロビゼーションで即興的に発展させて原曲に回帰していく、という構成をとっている。だから「DeepSpace」はおそらくキース作曲のオリジナルインプロビゼーション部分を指すのだと思う。

イントロの不協和音?と調和音の端境のようなピアノの旋律、これがものすごく美しい。空間を切り裂く静謐の音楽とはこういうことか。

途中にディジョネットのドラムとピーコックのベースが入り、徐々に盛り上がってくると出てくるキースのお決まりの呻き声・唸り声。これが苦手、という人にも幾人かあったことがあるが、これはご愛嬌と捉えるしかない。むしろこのアルバムでは若干?控えめな気もするのでキース唸りが苦手な人にも本作はおすすめだ。

#2 Stars Fell On Alabama

日本語訳で「アラバマに星落ちて」はフランク・パーキンス作曲のジャズ・スタンダード曲。まさにスタンダードトリオたるこのトリオらしい演奏。ベースのピーコックのウッドがとても柔らかで繊細で美しい。途中ピチカート奏法のように音をスタッカートさせるところがディジョネットのドラムと見事なリズムを生み出していて心地よい。

こちらは参考までに。エラ&ルイの名演奏である。

#3 Between Devil And The Deep Blue Sea

こちらもスタンダードで原曲はキャブ・キャロウェイ。キャブ、といえばやはりブルース・ブラザーズ!

「ミニー・ザ・ムーチョ」で有名なキャブ・キャロウェイ。後半の「オリオリオリオリオリオリオっ♪」は後年バブルガム・ブラザーズに引き継がれたとかなんとか。

この曲のタイトルは意訳すると「海に落ちる危険の高い作業をしていた船乗りが、悪魔と海に挟まれて絶体絶命」っていう感じの意味だそうだ。

演奏の方はキースのコケティッシュなピアノ(&唸り)にドラムとベースがフォービートで合わせていく、ジャズならよくある、な展開の曲。ただそれでも普通のスタンダードにしないのがこのトリオ。ちょっとでも隙を見せるとディジョネットがスネアのフィルインや金物のおかずを入れてくるし、ゲイリーはベースソロの見せ場でハイフレットでリズミカルなフレーズを刻んでくる。一歩間違えばカクテルミュージックやラウンジジャズになりかねない曲、それをいかに「聞かせる」演奏ができるか?そこにバンドの強靭さみたいなものを感じる。当然4バースや8バースも盛り込んでくる。スタンダードでやれることは全部盛り込みました!みたいな演奏だ。

#4 Somewhere / Everywhere

レニー、ことレオナルド・バーンスタイン作曲の舞台「West Side Story」の中の一曲「Somewhere」とキース自身の作曲「Everywhere」を結びつけるという至極のメドレー。

スタートからキースのメロディ弾きでスタートし、最終的にはオリジナルに落とし込む。後半ドラムに合わせてピアノとベースが同じフレーズを連打し続けていって終わる、というライブならではの構成、である。

#5 Tonight

こちらもバーンスタインの「West Side Story」からである。本作の中で特に私が好きなのは#1とこの#5、ピアノスタートのスリリングな展開がたまらない。ディジョネットのドライブするドラムにピーコックが刻む早めのベース、それに合わせて踊るように音の波を縫っていくキースのピアノ。透明なんだけど芯があって、それでいて何より聞いてて楽しい!、これってジャズの本質じゃない?なんて思ってしまうわけである。

#6 I Thought About You

こちらはおそらくライブのアンコール曲と思われる。Jimmy Van Heusen(ジェームズ “ジミー” ・ヴァン・ヒューゼン)作のスタンダード曲である。

ディジョネットのシンバルの煌びやかな響き、たまらんよなぁ・・・これに合わせるキースのピアノのメロディの美しいこと。そしてピーコックのベースラインの太いこと。ちょっとね、スコット・ラファロを感じずにはいられない演奏だ。

まとめ:良い音楽こそ集中力の源

以上、曲数にすればたった6曲なのだが、収録時間66分。相当中身は濃い。

録音技術が素晴らしいこともあるが、演奏も真正面から向き合えば特濃、しかしながら仕事中のBGMとして流してしまっても全く問題ない、飽きのこない贅沢で素晴らしい一枚である。

当然仕事中ということもあるので、集中に集中を重ねていると曲が終わったことすら気づかないことも多々ある。私などはもう、リピートモードで延々繰り返しプレイしている。

ジャズに厳しい方からするとこんな聞き方、許してもらえないかもしれないが、私はAirPods Proに最適化されたApple Musicのストリーミングで、ロスレスオーディオで聴いている。ノイズキャンセリングでこのトリオの静謐で透徹な演奏が楽しめるのだから、アナログにこだわることはあるまい。

なお、あまりに素敵すぎたので物理メディアとしてCDも購入した。

無論、自宅のJBLで鳴らしたらそりゃもう、「最高」だ。BGMなんて無理、身体が反応してしまって逆に仕事にならない。

気軽にも気重にも楽しめる最高の録音・演奏をぜひお試しいただきたい。

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