今年も残すところわずかだ。年末が近づくと、この一年を振り返りたくなる。ブログの記事を読み返してみると、今年は特にジャズ、そしてその中でもキース・ジャレットに関する記事が多かった。彼の音楽に心惹かれる時間が多かったのだと改めて感じるが、せっかくの年の瀬なので、少し趣向を変えて違うアーティストについて書いてみようと思う。
今年のキース関連の記事はこちら。
というわけで、今日はモダンジャズの巨人、マイルス・デイヴィスの名盤のひとつを紹介する。
今年ももう暮れようとしている。ブログを振り返ってみると本年、特にJAZZについてはキース・ジャレットの記事が多かったので、たまには違うものも取り上げてみたい。
ということで、今日はマイルス・デイヴィスの名盤のこちらをご紹介する。
自分自身、このアルバムが大好きで、何度も繰り返し聴いている。そしてもちろん、コレクターとしての喜びも忘れられない。自分が所有しているのは、USオリジナルのモノラル盤だ。手に取るたびに、その重量感と歴史を感じずにはいられない。盤面の光沢やジャケットのデザインに触れるだけで、当時の空気感が蘇るような気がする。
今日はそんな所有盤を手元に置きながら、実際にレコードを見つつ、このアルバムの魅力を改めてレビューしてみようと思う。年末のひととき、この名盤を味わう時間を多くの人に共有したいと思う。
アルバムの概要
「Someday My Prince Will Come」は、マイルスが1950年代後半から1960年代初頭にかけて築き上げたクインテット(五重奏団)の集大成とも言える作品だ。タイトルトラックは、ディズニー映画「白雪姫」の挿入歌をジャズスタンダードとして昇華させた名演で、マイルスの繊細かつ力強いトランペットが聴く者の心を捉えて離さない。
パーソネル
- Miles Davis (trumpet)
- Hank Mobley (tenor saxophone)
- Wynton Kelly (piano)
- Paul Chambers (bass)
- Jimmy Cobb (drums)
Additionally, John Coltrane (tenor saxophone) makes a special appearance on two tracks.
音楽的特徴
「Someday My Prince Will Come」の音楽的特徴は、マイルスの冷徹なまでに美しいトランペットと、それを支える卓越したリズムセクションの絶妙なバランスにある。ウィントン・ケリーのピアノは、時に軽やかに、時に重厚に、マイルスの演奏を彩る。
タイトル曲「Someday My Prince Will Come」では、3拍子のワルツのリズムが印象的だ。ポール・チェンバースのベースが、bom, bom, bom/bom, bom, bom/bom, bom, bom/bom, bom, bomと刻む音が、まるで物語の幕開けを告げるかのように響く。
ウィントン・ケリーのピアノソロは、モダンな響きのコードで始まり、やがて右手のシングルトーンで軽やかなアドリブを奏でる。このイントロ部分だけでも、聴く者を魅了せずにはいられない。
マイルスの鋭い構成力は、音量のコントロールにも現れている。ケリーのソロの途中で全体の音量を下げ、その後クレシェンドをかけるという演出は、まるでマイルスが直接指揮をしているかのようだ。
モノラルレコードで味わう魔法の音世界
それでは私の所有盤を見ていきたい。
ジャケットに映るのは確か当時のマイルスの奥さんだったかと記憶している。右上のマイルス・シルエットはこれ以降も頻出する。私の所有盤は残念ながら若干のジャケスレがあるが、経年上致し方ない。
裏ジャケ。非常にかっこいい。CBSソニーのジャケットデザインはブルーノートに比べるとどうにも…と思うことも多いのだが、この裏ジャケは素晴らしく良い構図だ。
レーベル面は赤の通称6EYEとよばれる、CBSロゴが左右3つづつ配されたものだ。このレーベルが白色だとプロモ盤、ということになる。モノラルなので規格番号はCL1656。
マト盤はXLP53313/53314、スタンパーはややこしいのだがA面が1BでB面が1A、初期ロットである。
今回は聴き比べではないので比較対象物はない。このレコードの音が素晴らしすぎるため、CDほかメディアは所有していないためだ。ということで、早速わたしの視聴体験を記載していく。
USオリジナル・モノラルレコードで「Someday My Prince Will Come」を聴く体験は、大げさに聞こえるかもしれないが、まさに音楽の神髄・ジャズの真髄に触れるようなものだと私は思っている。その魅力を以下の点から詳しく見ていこう。
- 音の密度と一体感
モノラル録音特有の密度の高い音像が、リスナーの耳に直接届く。各楽器の音が有機的に融合し、まるで一つの生命体のように感じられる。 - 臨場感溢れる再現性
針を落とした瞬間、1961年のコロンビアレコーディングスタジオにタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。マイルスのトランペットは目の前で演奏されているかのように生々しく、そして美しく響き渡る。 - 楽器の個性的な音色
- ポール・チェンバースのベース:芯のある音で部屋中を包み込み、心臓の鼓動のように体に染み渡る。
- ウィントン・ケリーのピアノ:左手のコンピングと右手のメロディラインが明確に分離して聴こえる。
- ジミー・コブのドラムス:スネアドラムのクリスプな音やシンバルのデリケートなニュアンスまで鮮明に伝わる。
- コルトレーンとの共演
「Teo」と「Someday My Prince Will Come」でのジョン・コルトレーンの参加は特筆すべき点だ。コルトレーンの荒々しくも繊細なサックスの音色が、マイルスのクールなトランペットと絡み合う様は、モノラルレコードならではの一体感を持って耳に届く。
このアルバムの魅力は、単にジャズの名演を集めただけにとどまらない。マイルス・デイビスという稀代の音楽家の創造性と、彼を取り巻く一流ミュージシャンたちの才能が、完璧なバランスで融合した結果生まれた芸術作品なのだ。
各楽曲の特徴も、モノラルレコードで聴くことでより際立つ:
- 「Someday My Prince Will Come」:マイルスのトランペットが白雪姫の心の声を代弁するかのように、切なく、そして希望に満ちた音色を奏でる。
- 「Teo」:マイルスとコルトレーンの共演が生み出す緊張感と調和が、より鮮明に感じられる。
- 「Pfrancing」:ハンク・モブレーの熱のこもったテナーサックスソロが、より生々しく伝わる。
- 「Drad-Dog」:リズムセクションの一体感がより強く感じられ、ライブハウスで演奏を聴いているかのような臨場感を味わえる。
ジャズの至宝:時を超えて輝き続ける名盤
マイルス・デイビスの「Someday My Prince Will Come」は、ジャズの歴史に燦然と輝く名盤であり、USオリジナル・モノラルレコードで聴くことで、その魅力は何倍にも増幅される。
このアルバムは、単なる音楽作品を超えて、一つの芸術作品としての地位を確立している。マイルスの冷徹なまでに美しいトランペット、ウィントン・ケリーの洗練されたピアノ、ポール・チェンバースの重厚なベース、ジミー・コブの繊細なドラムス、そしてハンク・モブレーとジョン・コルトレーンの個性的なサックス。これらすべてが完璧なバランスで融合し、聴く者を魅了してやまない。
マイルスは音楽活動期間が長い。初期のバップ時代〜最晩年期はHIP HOP、とその音楽スタイルも時代に応じて無限に変容させてきた。リスナーによっては初期のほうが好きとか、その逆、など意見は様々にあろうかと思う。本作はそんな膨大な作品を誇るマイルスのアルバムの中で、もっともすべての人に素晴らしいものと受け入れてもらえる最大公約数といっても過言ではないように個人的には感じている。
USオリジナル・モノラルレコードで「Someday My Prince Will Come」を聴くことは、まさに時空を超えた音楽体験だ。1961年のスタジオに立ち会っているかのような臨場感、そして音楽家たちの息遣いまでもが聞こえてくるような錯覚。それは、デジタル音源では決して味わうことのできない、アナログレコードならではの魔法のような体験なのだ。
この名盤を聴くたびに、私たちは音楽の持つ力、そして人間の創造性の素晴らしさを再確認させられる。マイルス・デイビスの「Someday My Prince Will Come」は、まさに永遠に色褪せることのない、ジャズの至宝なのである。その魅力は、時代を超えて、そして再生方法を超えて、私たちの心に深く刻まれ続けるだろう。
ぜひとも皆さんにもレコードで聞いてもらいたい1枚である。
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