年末廃盤セール真っ只中!も、価格高騰ハンパなし!
毎年12月になると都内はディスクユニオンほか各レコード店で一斉に「廃盤セール」が開催される。
以前は前日にWebに掲出されるリストを見てお目当てを探し、翌朝は早くに起きて店舗に並ぶということを毎週繰り返していたが、最近は個人的に欲しいと思う盤は大まか手に入れた感もあるので並ぶことはしなくなった。
大体セール日の夕方にはリスト上に価格も掲出されるわけだが、いやはや高騰っぷりが半端ないな、と感じる。レコード人気が高まっている証左であろう。
さて、セールには並ばなくなったが、昼間のんびりレコード屋巡りは毎週続けている。最近個人的なお気に入りはクラシック、しかも比較的安価で音の良さそうな、未だ聴いたことのない盤、いわゆる村上春樹に言えば「古くて素敵なクラシック・レコードたち」を探すことだ。
クラシックのアルバムは特にジャケットデザインにロックやジャズほどのオリジナリティのあるものが少ないため判別が難しいのだが、慣れてくるとなんとなく「あ、これ多分音いいやつだ」とか、感覚でわかってくる。マニアな自分が恐ろしい。
今日紹介するのはそんな1枚。よくある「新着中古品」のレコード棚に挿さっていたものから抜き出したものだ。
イタリア弦楽四重奏団+アントワーヌ・ド・バヴィエ(クラリネット)/ モーツァルト クラリネット五重奏曲 イ長調 KV.581(Mozart*, Antoine De Bavier, Quartetto Italiano – Klarinettenquintett A-dur KV 581)
いやー、ものすごく長いタイトル。イタリア弦楽四重奏団がクラリネット奏者のアントワーヌさんを迎えて録音したモーツァルトのクラリネット五重奏曲だそうだ。
私もジャケットが素敵だったので買っては見たものの、この楽団やクラリネット奏者、およびこの曲についてなんの予備知識もないので、まずは色々調べていこうと思う。
全く知見のないアーティスト・曲との突然の出会いほど興奮することはない。
今はネットで翻訳もある程度の情報も手に入るのですげー便利になったと思う。
なお、隷好堂はクラシックについてはほぼ素人なので勉強中の身。色々皆さんに教えて貰えれば幸い。
イタリア弦楽四重奏団(Quartet Italiano)について
イタリア弦楽四重奏団(Quartet Italiano)は1945年に北イタリアのレッジョで結成。ちなみにレッジョはこの辺り。
カプリ島でデビューし、結成当初は「新イタリア弦楽四重奏団」(Nouvo Quartet Italiano)と名乗っていたようだ。1951年に改称して「新」が取れて現在の名称に。解散は1980年、高齢がその理由とのこと。
ディスコグラフィはAmazon、あるいはアップルミュージック等のサブスクサービスで見ていただくのが良いかと思う。
クラリネット奏者、アントワーヌ・ド・バヴィエ (Antoine de Bavier)
続いてクラリネット奏者のアントワーヌ=ピエール・ド・バヴィエ(以下、ドバヴィエと略)について。
ドバヴィエ(1919年〜2004年)はスイスのクラリネット奏者・指揮者。ヴェーグ弦楽四重奏団とブラームスのクラリネット五重奏曲を録音したのち、1952年に本作をイタリア弦楽四重奏団と録音。その後健康上の問題からソリストとしての活動を中止したところ、あのフルトヴェングラーに説得されて指揮者に転向。
指揮者転向後はミケランジェリとの共演や、室内楽の教鞭をとっていたようである。
以上、ざっくりとした奏者についての解説。写真とか見れるだけでも理解の助けになるよね。
このドバヴィエさん、ディヌ・リパッティやクララ・ハスキルとも仲良かったみたいです。
モーツァルト クラリネット五重奏 (Klarinettenquintett A-dur KV 581)
この曲は1789年、モーツァルトが33歳、つまり死の2年前にフリーメイソンの盟友シュタードラーのために作曲された曲だそうだ。1789年といえば7月にフランス革命が起きた年である。近隣国で革命が起こっているというのにこの曲は非常に落ち着いた雰囲気がする。基本モーツァルトはウィーンに住んでたので革命の影響はなかったのだろうか?ま、距離感が現代とは違うのであろう。
残念ながら当人たちの演奏音源が見つからなかったのでザビーネ・マイヤーの演奏しているものをリンクしておく。
→facebookのコミュニティで音源のありかを教えてもらいました!お使いのサブスクで聴けるリンクはこちら。
盟友シュタードラーはモーツァルトの3歳年上の友人であったようだ。クラリネットおよびバセットホルンの名手であり、女遊びも盛んで借金も多くこさえていた・・・って、あ、通りで仲がいいのね、と。類は友を呼ぶ、まさにそれなんだろう。
映画「アマデウス」そのまんまな感じがしてちょっとにんまりしちゃう。
クラリネットという楽器は1700年ごろに誕生した楽器らしく、モーツァルトが生きた時代でも非常に目新しく、オーケストラに組み入れられはじめたのもこの頃のようだ。革新的な音楽を生み出してきた天才からすると新しい楽器に無限の可能性を感じたであろうことは想像に難くない。
なお、この曲の自筆譜は残っておらず、2次資料のみが現存しているそうだ。ブラームスはこのモーツァルトの五重奏曲にインスピレーションを受けて自身もクラリネット五重奏曲を作曲している。
レコードチェック
さて、長々とこの曲と演奏者について書いてきたが、いよいよレコードを見ていこう。
まずはジャケット。
いやー、この雰囲気がたまらんですよね。ジャケ買いしたくらいなのでジャケットがほんとデザインも秀逸、写真の構図もいいし、美男美女ぞろいだし。イタリアの楽団らしく非常に洒脱な印象を受けます。
裏ジャケはこちら。
裏面はクラシックにありがちな文字だけの非常にシンプルな作り。ロックやジャズと違って特に趣向を凝らしているところはない。
で、レーベルはこちら。
DECCAの黒金レーベル。ドイツ盤なのでUK版とは異なるようだ。盤は比較的ずっしりとした重さはある。目分量だが120gは超えている、いわゆるヴィンテージレコードと同様のしっかりした作りである。
discogによると、このアルバムはUS、カナダでも1952年に別ジャケットであるようだ。
今回手に入れたドイツ盤は1954年の発売。ジャケットだけなら圧倒的に私が入手したもののほうがカッコいいと思う。
さて、肝心の音だが、盤質はEX-〜VG++といったところ。ところどころパチパチとノイズは入ってしまう。が、この音にはやはりやはりやはりこのノイズは「味」という感じで妙にマッチしてしまう。以前書いたサラ・ヴォーンの時と同様、絶妙なノイズがスパイスとなって録音された時代の空気感、このジャケットの写真のような雰囲気を醸し出してくれる。
今回初めてモーツァルトのクラリネット五重奏曲を聞いたのだが、私が思っていたモーツァルトのイメージとはちょっとかけ離れていて嬉しい驚きがあった。どうしてもモーツァルトというと交響曲やピアノソナタがほとんとメジャーキーで書かれているので、明るく、絢爛、宮廷音楽、というイメージが先行してしまうのだが、むしろ落ち着いた質素な曲調だな、というのが第一印象。弦楽四重奏だけだと、演奏によほどのメリハリがないと私のような素人はアルバム一枚聴くのが限界、というか、飽きてしまうのだが、クラリネットが柔らかな旋律を紡ぐことで、見事に曲にメリハリをつけている。
このイタリア四重奏団とドバヴィエの演奏はクラリネットと四重奏の音のバランスも程よく、音が柔らかく全体像が明瞭。多少録音の古さは感じるが、クラリネットの柔らかな音色は休日の朝など落ち着きたい時間にぴったりな音楽だと感じた。映画「タイタニック」号のあの四重奏団の晩餐の際の演奏のような、気品も備えた柔らかな演奏は懐かしさと暖かさを感じさせるものである。
まとめ
今日は久しぶりにクラシックを取り上げてみた。
村上春樹「古くて素敵なクラシックレコード」(私は略して「フルすて」と呼ぶことにしている)、私は読んでいないのだが、この本のタイトルの裏にある大事なコンセプトは「手に入りやすい」ことであると思う。値段の面は特にであるし、できれば物量もそれなりにあって読者が手に入れやすければなおさら良いと思う。村上春樹のおかげ値段が高騰してしまったレコードもある。致し方ないことだが、当人もおそらく残念に思っているだろう。
今回のジャケ買い「フルすて」盤は2000円、もうちょっと安ければなお嬉しかったのだが、ジャケがどうにも素敵だったので衝動買いしたが大変にいいものだった。ただ、残念ながら音源をCDやサブスクで見つけることができなかった。。。これは申し訳なく思います。こちらの全集にも収録されていない模様。もし気になる方がいたら気長にレコ屋で探してみてください。
→こちらも収録されている全集がありました!
やっぱレコは安く見つけて長く楽しむ、これに限る。
ご一読ありがとうございました。
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