マディの咆哮が生々しく詰まったオリジナル盤
マディ・ウォーターズ(Muddy Waters)は、現代ブルースの基盤を築いた人物として広く知られている。「エレクトリック・ブルースの父」とも呼ばれ、その音楽は時代や地理、文化を超えて響く存在だ。ブルースに詳しい人も、これから知ろうとする人も、彼の影響力の大きさを無視することはできない。
Muddy Watersはシカゴ・ブルースの基盤を築いただけでなく、ロック音楽の進化にも大きな影響を与えたアーティストだ。かのローリング・ストーンズがマディの曲名からバンド名をつけたのは有名な話だ。
今回は、彼の名作コンピレーションにして我が家の家宝でもある「The Best of Muddy Waters」のUS-ORIGINAL MONO、オリジナルのモノラル盤に焦点を当て、その魅力を掘り下げていく。
なお、本ブログでは不定期だがブルーズをよく扱っている。興味あればぜひ下記の記事もご一読いただきたい。
Muddy Watersとは
Muddy Waters、本名マッキンリー・モーガンフィールドは、1913年4月4日生まれ。ミシシッピ州クラークスデール近郊のストーヴァル農園で育ち、幼少期からSon HouseやRobert Johnsonといった地元ブルースの伝説たちの影響を受けた。1941年、アラン・ローマックスによりライブラリー・オブ・コングレスのために録音され、彼の才能が広く知られるきっかけとなった。
1943年にシカゴへ移住した後、Muddy Watersのキャリアは急速に進展する。1948年にはChess Recordsと契約し、数々のヒット曲をリリース。デルタ・ブルースからシカゴ・ブルースへの移行を象徴するスタイルは、The Rolling Stonesをはじめとする多くのミュージシャンに影響を与えた。「Hoochie Coochie Man」や「Mannish Boy」といった代表曲は、彼の革新性と伝統の融合を示す至宝の名曲だ。
本作の裏ジャケにビッグ・ビル・ブルーンジーのマディに関する証言が載っているので引用をしておきたい。
カントリー・ブルース・シンガーの大御所、ビッグ・ビル・ブルーンジーはこう言う: 「本物だ。マディは本物だ。マディは本物だ。ミシシッピ・スタイルだ。コードも弾かないし、本に書いてあることも守らない。彼は音符を弾くんだ。彼が 「キング 」であることを証明するんだ」
本作ジャケット記載のライナーノーツより引用
「The Best of Muddy Waters」について
1957年にリリースされた「The Best of Muddy Waters」は、彼の代表曲を網羅したコンピレーションアルバムだ。このアルバムには以下の名曲が収録されている。
- 「Hoochie Coochie Man」
- 「I Just Want to Make Love to You」
- 「I Can’t Be Satisfied」
- 「Honey Bee」
- 「I Want YouTo Love Me」
どの曲も、彼の独自のスタイルを見事に表現しており、ブルースの本質=魂の叫び、を捉えている。ちなみにストーンズのミックとキースが初めてであった際に、ミックがちょうど手にしていたのがこのアルバムだった、なんて逸話もある。ロック好きにとっても避けては通れない一枚と言えるだろう。
参加ミュージシャン
Muddy Watersの音楽は、多くの優れたミュージシャンとの共演によって作り上げられた。このアルバムに参加した主なメンバーは以下の通り。
- Muddy Waters: ボーカル、ギター
- Little Walter: ハーモニカ
- Jimmy Rogers: ギター
- Otis Spann: ピアノ
- Willie Dixon: ベース
- Fred Below: ドラム
ブルース業界ではおなじみのメンツにしてどのメンバーもソロでやっていけるほどのミュージシャン揃いである。マディを含めた本作のメンバーはシカゴ・ブルースのスタイルを形成する上で重要な役割を果たした。
いわばチェスオールスターズでの録音と言っても過言ではあるまい。
USオリジナル・モノラル盤の魅力
「The Very Best of Muddy Waters」をUSオリジナル・モノラル盤で聴く体験は、まるで時を遡るような感覚だ。このフォーマットは、これらの楽曲が本来意図された形で聞こえる貴重な機会を提供する。ステレオ録音とは異なり、モノラル録音はボーカルと楽器の一体感を強調する。
まずは私の所有盤を見ていこう。
ブルースファンには馴染み深い、脂ギッシュなマディの横顔ジャケである。
残念ながら私の所有盤はジャケVG+、盤VG++〜EX-、というコンディション。ジャケの端はテープ止めされている。前のオーナーがそれほど大事にしていた、というポジティブに捉えることにしている。ちなみに購入時の価格はそれでも3万円弱。そもそもチェスのオリジナル盤は数が少ないのでコンディションの割に価格は高値止まりである。
こちらは裏ジャケだ。曲順紹介の後にスタッズ・ターケル(ジャズ評論家として高名)のライナーノーツが綴られている。右下には「Sheldon」、レコーディングスタジオの刻印がある。この刻印がある盤は高音質と定評がある。
レーベルはブルースファンの間で通称「チェスぐろ」と呼ばれる黒字に銀文字。DGも入っている。ただ、残念ながら盤には結構傷がある。モノラル針で聞く分には全く気にならないが、繊細なステレオ針やMCカートリッジで聞くとノイズが顕著な箇所も多い。
さて、そんなコンディションの盤であるが、音の方はノイズも含めて「これぞブルーズ!」という大変素晴らしいものである。オリジナル盤ならでは、の良さを以下にざっくりまとめてみたい。
1. 音の温かみと深み
モノラル盤のアナログ特有の温かみは、没入感のある音響空間を作り出す。「I Can7t Be Satisfied」などの曲では、このフォーマットによってリズムと力強いボーカルが生き生きと響く。特にマディがときおり見せるスライド・ギターの響きがキンキンでかっこいい。
2. 音圧の強い
とにかく音の押しが強い!ただでさえモノラル録音では、すべての楽器とボーカルがミックスの中央に位置して音圧マシマシなのがよいところなのだが、チェスのオリジナル盤はそれの1.5倍という感じだ顕著なのがLittle Walterのハーモニカ。力強過ぎ、まるで目の前で演奏しているかのようだ。サックスではないがまさにブロウ(Blow)している。このダイレクトな音圧が、音楽にさらなる感情的な重みを加える。
3. 生々しい荒々しさ
モノラルフォーマットが録音当時の生々しさを引き立てている。オリジナル盤であることも一因だが、音がとてつもなくフレッシュなのだ。録音に音響的小細工のようなものがまったく感じられない。おそらくだが一発録音そのまんまだろう、というほどの音の鮮度だ。
代表曲「Hoochie Coochie Man」では、このシンプルなミックスが曲の原始的なエネルギーを際立たせる。唸るマディの声、ウォルターの刻むリフ、ジミーのこれぞエレクトリック・ギターの原点と言わんばかりの中音域をつかったフレージング。たくさんのアーティストにカバーされ続ける名曲が、フレッシュでプリミティブな猛々しさそのままにパッケージングされた稀有なレコードだと思う。
まとめ
Muddy Watersの音楽的影響力は計り知れない。「The Best of Muddy Waters」は彼の天才を凝縮した作品であり、新しいリスナーにとってはブルースの世界への入り口となり、長年のファンにとっては宝物のようなコレクションだ。USオリジナル・モノラル盤は、この体験をさらに高める音質を提供し、ノスタルジックでありながら深く心に響くサウンドを届けてくれる。
Muddy Watersの深さと遺産を真に理解するために、このアルバムは必聴だ。それは単なる音楽ではなく、ブルースというジャンルの核心への旅であり、今なお世界中のリスナーに影響を与え続けている。
値は張るが、一家に一枚、マディのオリジナル盤。間違いない。
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