なかなか出会えない盤、あるよね?
最近は休日にちょろっとしか聞かないが、一時期ジャズにどハマりしていた時期がある。
現在アナログレコードはリバイバルブームの真っ只中であるが、コロナ禍以前の2018年ごろはまだそこまで盤の値段も高騰しておらず(一部を除く)、オリジナル盤でも多少なりお得に手に入れる機会があった。そんな折にジャズにどハマりした自分はBLUE NOTEやプレスティッジ、リバーサイド、インパルスなどのメジャーレーベルのオリジナル盤をとにかく買い漁っていた。毎週金曜日にネットに掲載されるセールのリストをくまなくチェックし、お目当てを見つけては組合のセールに早朝から並ぶ。毎週土曜日は戦場に繰り出す兵士が如く、であった。いま思うと「随分散財したなぁ」という後悔もちょっとあるが、近年のブームによる価格高騰をみていると「あ、買っといてよかった」なんて思うこともしばしばである。
さて、本日紹介するのはハンク・モブレーの人気作「Mobley’s 2nd Message」である。実は前述の「どハマり期」にオリジナル盤はおろか、国内盤さえも滅多にお目にかからなかった一枚がこのアルバムなのだ。おそらく枚数が少ないというよりも単なる巡り合わせの問題で出会えなかっただけなんだと思う。でも、そういうアルバムって誰しもあるよね?
今回たまたま週末にお茶の水界隈を散策→無為に「新着盤」の箱を漁っていたらしれっと刺さっていた本作。国内版だが4000円以上してしまった。が、「ようやく出会えた物語」を祝して迷わず購入してしまった、そんな個人的幻盤についてレビューしたいと思う。
なお、音楽のモニタリングには以前レビューしたこのヘッドフォンがおすすめです↓
Mobley’s 2nd Message
まずはジャケット。数字の羅列が印象的なこのジャケットはブルーノートのジャケットデザインでお馴染み、リード・マイルスによるもの。
こちらが裏ジャケ。オリジナル盤を見たことがないので精緻なリイシューなのかは判別できない。が、ジャケットは比較的厚紙で光沢もありしっかりとした作り。
なお国内盤なのでジャケットの中にはライナーも付属していた。
左下には切り取りの跡が。これはおそらくなんらかの「応募券」のようなものがついていたのではないか?と推測される。
WAVE FANTASY CLASSICS
ライナー最上部に「WAVE FANTASY CLASSICS」の表記がある。ユニオンで購入の際も値札に「WAVE盤」と記載があったので、この国内盤のリイシューシリーズの名前であろうと推測できる。
ではこの「WAVE FANTASY CLASSICS」とは何なのか?WAVEはおそらく当時東京にあったレコード販売・流通大手の「WAVE」ではないか?と推測できるが・・・
調べてみたところ、そのWAVEが出していたリイシューシリーズのようだ。以下オーディオショップ「ハイファイ堂」さんの過去のメルマガから引用したい。
1988年頃から’90年はじめにかけて、「WAVE」が「FANTASY RECORD」との提携で「WAVE JAZZ CLASSICS」(ウエイブ・ジャズ・クラシック)なるシリーズを発売する。
ハイファイ堂 メールマガジンより引用
当時、「WAVE」は「ジャズ」にも注力していて、「輸入盤」ではこの「FANTASY」のアルバムをはじめ各国から「ジャズ・アナログ」の輸入を行なっていた。
そのなかの一つの「企画」として上記の「ウエイブ・ジャズ・クラシック」のシリーズをリリースする。
最初の「企画」では国内仕様の「ジャケット」(厚紙で製作されていた)にマスターは「ファンタジー」からのもので、プレス(ディスクの製作)は「ビクター」?と思われるもので発売を開始した。このときの「スタンパー」が「マシン・スタンパー」なので、上記のことが推測されるのだが。
この企画の中にも「誠にレア!」なメジャー・レーベルからはリリースされていない、「コレクター・アイテム」とも言えるものがリリ−スされている。
なるほど。要はファンタジーレコードの持ってる盤を日本でリイシューしたのがWAVEなんだな、と。簡単にいうとそういうことかと思う。
ではファンタジーレコードとは?という疑問にぶつかるわけである。ご心配無用、これも同じくハイファイ堂メルマガで纏まっていた。こちらも引用したいと思う。
「ファンタジー・レコード」の設立は1949年マックス・ウェイス、ソル・ウェイスの兄弟により、サンフランシスコで設立された「ジャズ・レコード・レーベル」。
(中略)1949年 設立
1951年 「ギャラクシー・レコード」を設立し子会社とする。
1971年 「プレスティッジ・レコード」、「デビュー・レコード」、「グッド・タイム・レコード」を買収
1972年 「マイルストーン・レコード」、「リバーサイド・レコード」を買収。
1977年 「スタックス・レコード」を買収。
1983年 ジャズ専門レーベル、「オリジナル・ジャズ・クラシックス」(OJC)を設立、ジャズ系レーベルのリイシューを開始
1984年 「コンテンポラリー・レコード」も吸収し、「OJC」よりリイシューを始める。
1987年 「パブロ・レコード」も買収、「OJC」に含めて復刻を始める。その後数社吸収した後、2004年に「コンコード・レコード」に買収され、「コンコード・ミュージック・グループ」の傘下に入ることになる。
ハイファイ堂メールマガジンより引用
すなわち、ブルーノート以外の主だったジャズレーベルを1970年以降に買収し、ジャズリイシューで有名なOJC設立→リイシューしてきたのがファンタジーレーベルということだ。
昔のレコードは高いし数も少ないものが多くある。そういう意味じゃOJCってのはありがたい存在だ。
ということで、ざっくりだが私が手に入れた本作はOJCの日本盤という位置付けで大まか違いないと思う。
レーベル面
さて、レコードそのものを見ていこう。
レーベル面はお馴染みのプレスティッジのイエローラベル。盤もそこそこ厚みがあって重量感がある。ターンテーブルに乗せると重量盤ほどではないがどっしりとした安定感。「いい音鳴らしまっせ」という趣。
マトリクスは手書きマトであった。一瞬オリジナルか!?と驚きたくなるが、それは幸せな勘違い。ただ、OJCといえばリイシュー=機械マトというイメージだったが、これは国内盤だからか?
私のイチオシ:A1 These Are The Things I Love
さて、肝心の音楽だ。まずメンバーだけ見てわかるとおり、「悪いはずがない」メンツなのだ。
Hank Mobley – tenor saxophone
Kenny Dorham – trumpet
Walter Bishop – piano
Doug Watkins – bass
Art Taylor – drums
名手揃いのクインテット、そりゃあ人気盤であることも頷ける。
私が特に好きなのはA1「These Are The Things I Love」ピアノのキャッチーなメロディから始まるこの曲。
ケニー・ドーハムのかすれ気味のトランペットがテーマを奏で、そこから朗々と吹き始めるモブレー。どちらかというと先輩格のケニーのソロが「どうよ、こういう感じで吹くんだぜ、モブレー」って感じでモブレーの後にソロを取るのだが、そこが逆にモブレーの初々しいソロフレーズを引き立たせている。
B1「The Latest」も捨てがたい名作。オーセンティックなバップスタイルで曲の中盤から4バースでソロを回しあっていくのは非常にスリリング。「あー、ジャズってこれだよね!」感溢れる1曲。
そのハードなB1から打って変わってスローなB2「I Should Care」は先輩トランペッターのケニー・ドーハムのソロが渋くて素敵。何せ息遣いが漏れる、ため息のような音色が絶妙の枯れ具合。合間にウォルター・ビショップが紡ぐピアノの1フレーズがまた味わい深くて良いのだ。ペットの後にとるソロはピアノの豊かな響きを生かしたシンプルなプレイがベースのダグ・ワトキンスの太い音色とシンクロしていわゆる「抜きの美学」を見せてくれている。個人的にこういう「余計なことしない」ソロは大好きだ。ハンクは、まぁ、なくてもいいかな?と思うくらい、この曲はトランペットとピアノが主役だ。
さて全体を通した音質面だが、一般的なリイシューものに比べてハイ落ちが少ない。アート・テイラーのドラムの金物が特に良くなっている印象だ。オリジナル盤を所有していないので比較はできないが、レンジも広く各楽器の分離も良い。ただ、モノラル盤のような押し出しの強さは感じられない。もちろん望むべくもないのだが・・・とはいえリイシュー盤である点とコスパの観点からは十分及第点以上の出来栄えであると思う。いわゆる「買ってよかった」と思える一枚だった。
TONE POETシリーズやアナログプロダクションなどのリマスター物とも比較してみたいが、正直今回購入した盤で現状は十分満足である。
盤との出会いは一期一会
今回は「私的幻盤」であるハンク・モブレーの「セカンド・メッセージ」を取り上げた。
ほんとね、探してるんだけど中々出会えない盤、ってあるんだよね。なんでか知らないが、そんなにレアでもないのに、オリジナル盤はおろか、リイシューの国内盤ですら出会えないっていう。人気だから、というのも理由だとは思うのだが、おそらくそれって「巡り合わせ」みたいなものがあるんじゃないかな?とも思う。
やはり出会いは「一期一会」、恋愛でもレコードでも、「これだ」「あった!」「見つけた」って出会ったら、思いっきり抱きしめてうちに連れて帰らなきゃだめなんだなw
ご一読ありがとうございました。
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