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キース・ジャレット『A Melody at Night, With You』の魅力と音源比較:CD、レコード、サブスク聴き比べ

CD

キース・ジャレットの「A Melody at Night, With You」は、1999年にECMレーベルからリリースされたピアノソロアルバムだ。

この作品は、彼が慢性疲労症候群からの回復中に録音され、妻ローズ・アンへの感謝を込めたものと言われている。静かで親密な雰囲気が特徴で、多くの人々に感動を与えている。

つい先日(2024年10月11日)このアルバムはNHKの星野源が司会を務める音楽番組「おんがくこうろん」でもジャレットの即興演奏の魅力や音楽に対する情熱とともに紹介された。

NHK公式サイトより引用。画像をクリックで当該サイトへリンク

キース・ジャレットの来歴

Wikipediaより引用

キース・ジャレットは1945年、ペンシルバニア州アレンタウンに生まれた。3歳からピアノを学び始め、クラシック音楽の教育を受けたが、ハイスクール時代からジャズに傾倒した。1960年代にはニューヨークへ進出し、アート・ブレイキーやチャールズ・ロイドのバンドで活動した。その後、マイルス・デイヴィスのバンドにも参加し、その名声を確立した。

1970年代には「アメリカン・カルテット」や「ヨーロピアン・カルテット」を結成し、独自の音楽スタイルを追求した。1980年代にはゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットと共に「スタンダーズ・トリオ」を結成し、ジャズ界に大きな影響を与えた。

キースと日本

ジャレットにとって、日本は特別な場所だ。彼はここでの演奏を通じて、聴衆との一体感を感じることができると語っている。静寂の中に響く彼のピアノは、聴衆一人ひとりの心に直接触れる。その瞬間、音楽はただの音ではなく、感情や思い出、そして文化が交錯する場となる。日本の聴衆は、その静けさと集中力で彼の即興演奏を支え、共鳴させる存在なのだ。

特に1976年のソロツアーや、日本武道館での公演は、彼のキャリアにおける重要なマイルストーンとなった。これらの公演では、ジャレットが持つ音楽的な魔法が日本の空気と融合し、観客を魅了した。彼が日本で録音したアルバムも多く、その中には名作『サンベア・コンサート』や『レイディアンス』などが含まれている。

直近の様子

1996年に慢性疲労症候群を発症し、一時活動を休止したが、今回ご紹介する「A Melody at Night, With You」で復帰した。その後も精力的に活動していたが、2018年に脳梗塞を発症し、現在はニュージャージー州オックスフォードで療養生活を送っているということだ。

なお、キース・ジャレットについては他のアルバムもレビューしたことがある。気になる方はこちらもご参照いただきたい。

曲の解説

このアルバムに収録されている曲は全てスタンダード、いわゆるカバーである。ここでは各曲の作曲者と有名な演奏をまとめてみた。

  1. 「I Loves You, Porgy」
    作曲者: ジョージ・ガーシュウィン
    愛の切なさを表現したスタンダードナンバーで、ジャレットの繊細なタッチが際立つ。この曲はビル・エヴァンスによる名演でも知られ、その深い感情表現は多くのピアニストに影響を与えている。
  2. 「I Got It Bad and That Ain’t Good」
    作曲者: デューク・エリントン
    ブルース調の曲で、感情豊かな演奏が印象的だ。エラ・フィッツジェラルドによる名演もあり、そのソウルフルな解釈は聴く者を魅了する。
  3. 「Don’t Ever Leave Me」
    作曲者: ジェローム・カーン
    シンプルでクラシカルな雰囲気を持ち、心温まるメロディが特徴だ。フランク・シナトラもこの曲を取り上げており、その優雅な歌声が印象に残る。
  4. 「Someone to Watch Over Me」
    作曲者: ジョージ・ガーシュウィン
    高音を効果的に活かしたメロディが心に響く。エラ・フィッツジェラルドやサラ・ヴォーンによる名演もあり、それぞれ異なる魅力を持つ。
  5. 「My Wild Irish Rose」
    アイルランド民謡
    シンプルで優しいメロディが印象的で、ジャレット独自の解釈が加わっている。ジョン・マコーマックによる伝統的な演奏も有名だ。
  6. 「Blame It on My Youth / Meditation」
    作曲者: オスカー・レヴァント
    耽美的な曲調で、ジャレットの繊細な演奏が際立つ。チェット・ベイカーによるトランペット演奏も名高く、その哀愁漂うサウンドは多くのファンに愛されている。
  7. 「Something to Remember You By」
    作曲者: アーサー・シュワルツ
    半音階を巧みに使ったメロディが特徴的だ。ビング・クロスビーによる古典的な解釈も知られており、その柔らかな歌声が心地よい。
  8. 「Be My Love」
    作曲者: ニコラス・ブロズスキー
    キャッチーなテーマと緩急のある演奏が魅力だ。マリオ・ランツァによるオペラティックな名演は圧巻で、多くの聴衆を魅了してきた。
  9. 「Shenandoah」
    アメリカ民謡
    優しく切ないメロディが心に響く。ピーター・ポール&マリーによるフォーク調の解釈も人気があり、その素朴さと温かさが際立っている。
  10. 「I’m Through with Love」
    作曲者: マーティン・マクヒュー
    可憐で甘いラストナンバーとして締めくくられる。ナット・キング・コールによる名演も有名で、その洗練されたスタイルは多くの人々に愛されている。

キースの本作は別途聴いていただくとして、上記の名演と呼ばれるものをある程度まとめたプレイリストも作ってみた。キースの演奏と是非とも聴き比べていただきたい。

聴き比べ

さて、では今回の本題、聴き比べに入りたいと思う。

とはいえ今回はレコード、CD、そしてサブスクというソフトの種類も違う聴き比べである。使っている機材も共通というわけにはいかない。よって、あくまで主観的な印象になってしまっているのはご容赦いただきたい。

CD音源について

あえてレコードジャケットの上に重ねておいて大きさを比較。私が所有しているCDはペーパースリーブ付きのものだ

まずはCD。再生機材は以下の通り。

  • スピーカー:JBL L88 NOVA(1969)
  • ツイーター:Z501スーパーツィーター
  • AMP:DENON PMA-A110GS
  • CDプレーヤー:DENON DCD-a110(メイン)

CD音源はクリアで精緻な音質が特徴だ。デジタルフォーマットならではの正確さを提供し、各音符が明瞭に響く。特に高音域でその違いを感じられる。CDはノイズレスな再生環境を提供するため、ジャレットの微細なタッチやニュアンスも捉えることができる。彼の特徴でもある演奏中の唸り声も病み上がりではあるものの健在。彼の演奏スタイルは非常に繊細であり、その微妙なダイナミクスやペダリング技術が再生音にちゃんと反映されているかというところだが、全く問題ない。さすがは高音質で有名なECMレーベル、ノーマルCDだけれども素晴らしい音だ。及第点以上と言っていいだろう。

レコード音源について

こちらも使用機材を記載しておく。

  • スピーカー:JBL L88 NOVA(1969)
  • ツイーター:Z501スーパーツィーター
  • AMP:SANSUI AU607
  • レコードプレーヤー:THORENS TD520
  • アーム:SME 3012R
  • カートリッジ:DENON DL-103R

元々本作リリース時はアナログの発売はなかった。CDだけの発売だったが2019年に待望のアナログ化された。私は発売と同時にディスクユニオンでこちらを購入。オリジナル盤ということになるだろう。

ジャケ写の左上に当時の値札¥3700も貼ったままだ。なお、現在もDiscogなどで調べるとほぼ同様の額で購入できるようだ。

裏ジャケ。シールドは剥がさないように気をつけている。
裏ジャケの拡大。リリースは1999年、アナログは2019年。
レーベル面。盤は重量盤というほど重くはないが、それでも結構厚みのある作り
A面のマトリクスは26067 6A ECM 1675

さて肝心の音の方だが、やはりレコード音源はアナログ特有の暖かさと深みがある。低音域の豊かさとダイナミックレンジの広さが際立ち、より自然で臨場感あるサウンドを楽しめる。

アナログ盤では微細なニュアンスや空間的広がりも感じられる。特にMCカートリッジを使用しているからか、その深みと豊かさはさらに増す。録音の空気感、音質がCDと比べるとなんとも柔らかく聞こえるのはアナログならでは。

独特の温かみと、若干の静電気によるノイズがあるが、それらは逆にスパイスとして音楽体験全体を豊かにする要素として働く。もちろん盤に傷やプレスミスはないが、おそらく製造時の剥離剤の影響だろう、静電気が帯電していて埃がつきやすくなっている。2年ほど前に例の超音波洗浄はやっているのだが、これはもう一度やった方が良さそうだ。

レコードプレイヤーを再生する物理的なプロセス自体もまた、一種の儀式として楽しむことができ、その手間も含めて音楽との向き合い方を変えてくれる。本作に収録された曲はまさに心落ち着かせるのにはうってつけの選曲。秋の夜長にゆったりとお酒を飲みながらアナログ盤に針を落とす。聴くならば断然アナログ盤をお勧めしたい。

レコード洗浄についての記事はこちらを参照

サブスクについて

サブスクについて。私はApple Musicをサブスクライブしているので、iPhoneとAirPodsPro2、という経路で視聴した。

一応Apple Musicはハイレゾとはいかないまでも、AirPods用にロスレスオーディオにも対応しており、高品質なストリーミング体験を提供している。ノイズキャンセリング機能を使用して視聴したところ、まさに静寂・静謐なピアノの音が目の前に浮かぶような、広がりのある音を楽しめる。これはこれで楽しめて良い。

ただ、好き嫌いだが私はやはりスピーカーを通して聴く方が開放感があって良い気がした。CDの方が高音部分が伸びていると感じたし、どちらかというと微妙なダイナミクスやペダリングが目立ちすぎの印象も受けた。

結論:やっぱりレコードが個人的には好き

さて結論だ。

結論:時間にゆとりがあるならレコードで。

キース・ジャレットの『A Melody at Night, With You』は、ただの音楽アルバムではない。大袈裟かもしれないが、このアルバムは心の奥深くに響く感情の旅の記録であり、聴く者に忘れられない印象を残す作品だ。彼のピアノは、静寂の中でささやき、感情を豊かに表現する。その音色は、聴衆との間に特別な絆を築き上げ、共鳴し合う瞬間を生み出す。アナログレコードの温かみや、CDのクリアな音質、サブスクの利便性、それぞれのフォーマットには独自の魅力がある。どの方法で聴いても、ジャレットの音楽は心に深く刻まれる。しかし、彼の音楽を真に体験するためには、レコードを手に取り、その音楽が生まれる瞬間を感じることが最もおすすめだ。

彼の演奏は、私たちの日常に彩りを与え、心に寄り添う存在となる。だからこそ、このアルバムは聴く者にとって、一生の宝物となるだろう。音楽が持つ力、その美しさを再確認するために、ぜひ『A Melody at Night, With You』を手に取ってほしい。

あなた自身の心の旅が始まる瞬間を楽しみにしている。

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