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Donald Byrd / Fuego (BN84026)_US盤RVGカッティング

Disk Review
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新宿DUGに久しぶりに往訪

春の訪れを感じる2025年3月初旬、皆様はいかがお過ごしか。つい先日、新宿のジャズ喫茶「DUG」に立ち寄った。

店主である中平穂積氏が亡くなられていったいお店はどうなっているのだろうか?なんて軽い心配をしながら往訪してみたのだが、豈図らんや、お店は土曜の昼下がりということもあって大盛況、待ち人までいる混雑っぷりであった。

混雑一歩手前に入店できた私はカウンター近くの二人がけの小席を案内された。いつものようにDUGコーヒーと好みのサンドイッチ「ダグットサンド」を頬張り、席で煙草を楽しむ。余談だがここのダグットサンド、こと、レタスハムチーズの挟まれたサンドイッチはとても美味しい。軽く炙ったトーストのもちもちっとした食感が分厚く切られたチーズと相性抜群なのだ。

さて、膨れた小腹を慰めつつ紫煙をくゆらせているとDonald Byrdのアルバム『Fuego』が流れてきた。そういえばこのアルバム、長らく聞いていなかった。こういう出会い・再会が外で音楽を聞く楽しみでもあるよね。ということで今日はオリジナル盤比較ではないが、手持ちのUS盤RVG刻印有りのステレオ版「Fuego」について触れてみたいと思う。

アルバム概要 / パーソネル

『Fuego』は、1970年にブルーノートからリリースされたアルバムで、Donald Byrdがトランペットをリードしている。このアルバムのパーソネルは、非常に豪華である。

  • Donald Byrd (Trumpet)
  • Jackie McLean(Alto Saxophone)
  • Duke Pearson (Piano)
  • Doug Watkins (Bass)
  • Lex Humphries (Drums)

ブルーノート4000番台を支えたバードにジャッキー・マクリーン、デューク・ピアソン揃い踏みである。このメンバー構成であっても本作は結論的には派手な曲がないのであまりブルーノート名盤などで取り上げられることは少ないように個人的には感じるが、全体的な完成度は高いと思う。抑制の効いた演奏が奏功している好例のような作品だ。

RVG刻印の価値とレコードの魅力

私が所有しているのは、ブルーノートのUS盤で、オンプラベルのものでRVGの刻印があるステレオ盤である。

このRVG(Rudy Van Gelder)カッティングについては、わたしなどが触れるのもおこがましいくらい様々な界隈で議論されているのでここでは割愛する。音質がクリアで低音域の出力が強く、とはいえ高音もしっかりと聞こえてくる、いわゆる神ミキシングの代表である。RVG刻印のあるなしでその作品の印象が変わってしまう。そのくらい劇的である。

RVGスタジオでの録音技術は、アナログ時代の最高の音質を引き出すためのものであり、特にモノラル盤では顕著である。その結果、最近、RVG刻印のあるレコードが特に人気を集めており、価格が高騰しているため聴き比べていただくのはなかなかハードルが高いかもしれない。これは、音の良さや希少性が評価されている証拠でもある。いまでもジャズ喫茶などに行けばオリジナル盤をかけてくれるところも数多い。そういう場でぜひともRVG未体験のかたはご体験いただきたい。

最近ブルーノートではマスタリングエンジニアのケヴィン・グレイを起用した諸作を「Tone Poet」シリーズとして再発している。これもかなり良いミキシングと評判だ。RVGとはそもそもが違う(機材や時代、もちろん技術者)のだが、RVGはそもそも現存数が少なくなっているので、こちらを購入してたのしむのも手頃でよいだろう。(とはいえ高いけどね・・・)

おすすめの1曲「AMEN」

結論的に言うと、本作『Fuego』は特に派手さのない一枚である。ソニー・ロリンズの「サキコロ」やビル・エヴァンス・トリオの「ワルツ〜」、のようなタイトル曲=代表曲、みたいな曲は皆無である。いわゆる「通好みのアルバム」、抑制の効いた味わい深い演奏が滋味深く、それをゆったりと楽しむアルバムといえよう。

その中で私が特に聴くべき1曲としては、B面最後の曲「Amen」を上げたいと思う。

「Amen」というタイトル通り、ゴスペル的な雰囲気が溢れる楽曲で、ピアノと管楽器のコール・アンド・レスポンスが印象的なテーマを形成している、親しみやすい曲だ。楽曲全体が非常にリズミカルで、「こんなに楽しいジャズがあるんだ!」と感じさせるエネルギッシュな演奏が特徴である。

余談だが、往時のジャズ喫茶ではこのアルバムのB面が特に人気で、「Amen」はその中でもリクエストされることが多かったそうな(出典不明はこちら)。この曲では、Donald Byrdのトランペットが力強く、美しいメロディーを響かせ、聴く人を一瞬にしてアルバムの世界へ引き込む。レコードで聞くとその迫力がより強く感じられ、音の一つ一つが深く心に残る。この曲を聴いた瞬間、ジャズの醍醐味を存分に味わえるので、ぜひ注意深く耳を傾けてほしい。

落ち着いた春先に

アルバム全体を通じて、Donald Byrdのトランペットは力強さと柔らかさを巧みに使い分けており、聴く者に様々な情景を思い描かせる。特に、ジャッキー・マクリーンのアルトサックスの情熱的な演奏が味わい深さを加え、曲の魅力を倍増させている。

『Fuego』には、時を超えた普遍的な美しさのようなものが宿っている気がする。滋味深いのだ。何度聴いても新たな発見があるというわけでもないんだけれど、いつ聞いても心穏になるし、飽きが来ない。

こういう落ち着いたアルバム、おすすめした「AMEN」のほうが、朗々と春狙い?の音楽よりは季節の訪れの心温まるひとときにぴったりかもしれない。

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