2024年は、キング・クリムゾンのアイコン的アルバム「RED」がリリースから50周年を迎える記念すべき年であった。このアルバムは、バンドのディスコグラフィの中で特別な位置を占めており、数多くのファンや音楽評論家から高い評価を受けている。ロックの歴史における重要性はもちろん、音楽的深さや革新性においても色あせることがない作品であり、多くの聴き手を魅了し続けている。
今回は、「RED」の魅力、その構成、そして特にUKオリジナル盤の音質について深く掘り下げていく。本来ならば周年イヤーの24年内に取り上げておくべきであったが筆が間に合わなかった。ご容赦いただきたい。
アルバムの概要
「RED」は1974年にリリースされたキング・クリムゾンの6枚目のスタジオアルバムであり、前作「Larks’ Tongues in Aspic」や「Starless and Bible Black」に続く重要な作品である。アルバムのオープニングトラック「Red」をはじめ、緊張感のあるアンサンブルと複雑に構築された楽曲が、聴く者に圧倒的な体験を提供する。特に、ギターとベースのユニゾンリフ、金物を多用したメロディアスなドラミングが特徴的なハードなロックナンバーが多く、プログレッシブ・ロックの典型とも言える内容となっている。
パーソネル
「RED」のレコーディングには、次のメンバーが参加している:
- Robert Fripp: ギター、キーボード(メロトロン)
- John Wetton: ボーカル、ベース
- Bill Bruford: ドラムス
- David Cross: ヴァイオリン、キーボード(一部トラックのみ)
このメンバーは、それぞれの独自性を活かしつつ、相互に相乗効果を生むことで、音楽に新たな深みと複雑さをもたらしている。特に、ウエットンの力強いボーカルとフリップのギターは、このアルバムの核心を形成し、聴き手に強い印象を与える。
『Red』は、ロバート・フリップ、ジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォードの3人を核にレコーディングを行った、キング・クリムゾンの1970年代最後のスタジオアルバムでもある。ライヴで培った超絶技巧の演奏力と即興から生み出される緊迫感、それでいて哀歌にも似たメロディがドラマティックに交差する、非の打ちどころのない威厳さと力強さが備わった究極のサウンドが鳴り響く
本作には音楽的にジャズ・ロックやヘヴィ・メタル、アート・ロックの要素が絶妙に融合しており、聴き手を引き込む推進力を持つ。デビューして一貫して新たなサウンド・楽曲を提供してきたクリムゾンの、いわば一つの完成形がこの「Red」である。
本作のUKオリジナル盤について
では早速私の所有盤を見ていこう。
ジャケットは一枚ものだ。紙質もそれほど厚くなく、ペラジャケに近い。ちなみに購入は2019年頃、価格は2万円ちょいだったと思う。盤質はEX+、傷一つないきれいな盤だ。ジャケットはEX-くらいかと思うが、写真の通り経年劣化程度のスレしかないので個人的には気にならない。
レーベル面は島レーベル、通称「PINKリム」である。以前同じくクリムゾンの「宮殿」のときに書いたが、アイランドの初期レーベルは「PINK-i」レーベルである。本作発売時にはPINKリムに移管されていた。
続いてマトリクス。
写真がイマイチなので一応マト番号を記載しておくと
- Matrix / Runout (Side A): ILPS 9308 A-3U
- Matrix / Runout (Side B): ILPS 9308 B-6U
となる。
B面の初版マトが「6U」という、ある種異常値スタートだが、その経緯は不明である。勝手な想像だがフリップ御大がなかなかカッティングに納得せず、数えて6つ目でようやくOKが出た、という感じじゃなかろうか?
なお、「宮殿」と違ってこの作品の若いマト盤が製品として存在するという話は聞いたことがない。
CD音源とレコードとの音質の違い
さて、今回は手元にあるCDと音質の比較をしてみた。本来ならば50周年記念のCDと比較すればいいのだろうが、残念ながらまだ入手していない。よって最初期のフリップ御大による89年リマスターCDと比較したい。
以前も書いたが初期のCDは「AAD」、すなわちアナログ録音(これはレコード時代と一緒)→アナログミックス→デジタルフォーマット(CD)化されている。最近では「ADD」や「DDD」がもちろん主流なのだが、AADのCDは実はレコード並みに音がいいように私は感じている。特にスイングアーム式の旧式CDプレーヤー(STUDERやマランツなど)で再生すると意外なほど楽器の響きを豊かに、いい音で聞かせてくれる。もちろん最新型のプレーヤーでもしっかりと鳴らすことは可能だ。中古ショップでの値段も安い。見かけたらぜひ購入して試してみてもらいたい。
さて聴き比べだが、やはりCD音源とレコードの音質の違いは明確に感じられる。
CD音源は、細部の音の再現性に優れ、複雑な楽器構成を明瞭に表現する利点がある。例えば、「Providence」のリズムセクションの絡み合いや、「Starless」の劇的な展開は、CDで聴くことでその技術的な側面(各演者のプレイスタイルなど)を分析的に楽しむことが可能だ。総じてクリアで各楽器の分離もはっきりしている。
UKオリジナル盤は、そのアナログ特有の暖かみと広がりのある音場が魅力で、特に「Red」のオープニングリフや「Starless」のドラミングが際立つ音圧で出力され、アナログ特有の音質の良さを堪能できる。A面最初のメタリックなリフで始まる「Red」のギターリフはお世辞ではなく「いま眼の前に真空管のギターアンプ置いてます?」というくらい、リアルな響きがする。フリップのギターやウエットンのボーカルには、アナログ特有の柔らかさがある。レコードで聴くことで音楽の温度感や空気感をよりリアルに体に受け止められる。アナログ盤特有の微細なノイズや音の揺らぎが、聴く者に生々しさを増し、逆にリアリティを感じさせることも多い。
結論
音の善し悪し、という点では正直甲乙つけがたい、というのが私の率直な感想だ。
UKオリジナルがCDよりも優れている点は音の温度感・空気感、そしてアナロギッシュな温かい音圧、この点だ。せり出してくるような音の洪水、まさに溝を掘って絞り出している音を浴びたいというのであれば是非ともUKオリジナルに手を出してほしい、と思う。
ただ、純粋に音楽を、曲を、クリムゾンを楽しむという点で行けば、正直CDでもいいかな?と思う。オリジナル盤とそこまでの差を私は感じなかった。
キング・クリムゾンの「RED」は、その音楽的な深さ、革新性、技術的な完成度の高さにより、時代を超えて愛され続ける名盤である。UKオリジナル盤を所有することで、オリジナルのマスターテープから直接プレスされた音質を体験でき、CD音源とは一味違った魅力を感じることができる。クリムゾンマニアにとってはたまらないアイテムだと思う。
音楽ファンにとって、「RED」は必聴の作品であり、その影響力は50年を経てもなお続いている。音楽を愛する全ての人に、フォーマットは問わずとにかく本作品を一聴してもらいたい、と心から思う、そんな名盤である。
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