レコードとSACD、どっちの方が音がいいのか?
アナログレコードブーム到来!
まさに、アナログレコードの時代がまたやってきた。つい数年前までは忘れられサブスクの影に追いやられていたレコードが再注目されている。
となれば、やはり名盤と言われる作品を改めてレコードで聞きたいところである。
今回取り上げる作品はジャズの大名盤、Bill Evansの「Waltz For Debby」(ワルツ・フォー・デヴィ、通称ワルデビ)である。
大胆にも、この大名盤について、私の所有するLPレコードのオリジナル盤(モノラル)と、SACD盤(アナログプロダクションによるリマスター盤)で比較しよう、というのがこの企画。
オリジナル盤!?そんなの手に入らないかも。でも、気になる…
いやいや、「ちょっと待った!」
そもそも「ワルデビ」のオリジナル盤なんて、欲しくても手に入らないじゃないか!?
おっしゃる通り。手に入ったとしても、大変高価…程度にもよるが、いまや軽く10万は超えてくるであろう。そんな手に入らないものを比較対象にしてもどうしようもないじゃん!なんて声も聞こえてきそうである。
でも、気にはならないだろうか?
SACDよりもオリジナル盤の方が音がいいのか。
言い換えれば、
「SACDはどれだけオリジナル盤に肉薄しているのか?」
あるいは、
「オリジナル盤はやはりもっともいい音なのか?」
たまに中古屋で見かける高嶺の花、高額盤・レア盤の類を手に入れたいが、先立つものが必要。
とはいえ、大好きな名盤、手に入れたい。せめて音だけでも聞きたい。
そして願わくば、ある程度お手ごろな値段でその音を手元に置きたい。
レコードの世界、それは沼…
レコードの世界はいわゆる「沼」、である。
特に古い作品・ヴィンテージ作品は市場にほとんどタマ(現存物)がない。残念ながらオリジナル盤と呼ばれるものは当然ながらその作品が発表された年に制作・製造されている(一部数年間、同じ体裁のものもあるが…)
それゆえ、現存する数が少ない。古い作品、例えばビートルズの作品なら、もはや製造から50〜60年が経っているわけだ。だからこそたまに市場に出る(店に並ぶ)希少盤は非常に高いお値段がついている。なかなか手が出ないが、迷っているうちにどこぞの誰かに買われてしまう。
今度こそは、今度こそは、と悩んだり、あるいはお店でお目当てのジャケットを店内で持ち歩きながら逡巡する…私もしょっちゅうそういうシチュエーションに出くわす。
時には「清水の舞台から飛び降りる」と心に決めて飛び降りることもしばしば…もう何度、清水の舞台から飛び降りたか、正直数え切れない。
いくら高額でも、そこにお目当ての獲物があれば何が何でも手に入れたい!鳴らしてくれる音を浴びる耳福を求めたくなるのはレコ好きの性なのである。
聴き比べできるなら、してみようじゃないか!
であれば、聴き比べてみようか。
私はここ数年、noteで様々な音楽の聴き比べを記録してきた。
周波数とかS/N比とか、なるべく専門用語を使わずに、聴覚の赴くままの感想を述べ伝えてきたつもりである。
例えばレコードのオリジナル盤と再発盤の比較、UKオリジナルとUSオリジナルの比較、オリジナル盤とインド盤の比較など、すべて自費で、である。
いわゆる人身御供的な献身的作業を、まったく嫌だとも思わずに、むしろ嬉々としてやっている。いわば変態の類に近い。
これまで聴き比べてきたものの中には名盤・駄盤、いろいろあったが、正直にいいものはいい、悪いものはいい、と忌憚なく伝えてきたつもりである。
このような自己犠牲によって培われた聴き比べ、比較であるので、私は多少なり「聴き比べ力」については自信を持っているつもりである。
皆さんにはぜひこの記事を一読いただき、清水の舞台から飛び降りるべきか否か?じっくりとご検討いただきたい。
結論:どっちがおすすめなの?
まどろっこしいのは嫌いなのでまずは結論から。
結論:音質・状態・値段の観点から、アナログプロダクション(アナプロ)のSACDをおすすめする
「音質」(音圧・音の作り・バランス)、は正直「オリジナル盤MONO」の方がやはり良い。
レコードに閉じ込められた時代の雰囲気、これは唯一無二のものである。そして当時最良と考えられるミックスを施している点や録音から製品化までの音の鮮度を考えれば、やはりオリジナル盤は何者にも代えがたい魅力がある。
ただ、「音質」の観点に加えて、レコードでは必ず気にしなければならない「状態」(個体差や盤質の優劣)、「値段」(価格、入手のしやすさも含める)の3つの観点で総合比較すると、SACDのほうが総合的にはオススメであるという結論に私は至った。
以下、この3つの観点について検証していきたい。
比較①「音質」
比較1:音質で比較→音場の広がりとバランス→僅差だがオリジナル盤LPが◎
正直、バランスという観点では「オリジナル盤MONO」の方が良い。
レコード特有の温かい出音、儚く、時に力強く小粋にスウィングするエヴァンスのリリシズムあふれるピアノ。
いい意味でゴリゴリ出てこないラファロのベース(やたらめったら低音が強調されておらず、出るときは出る、引っ込むときは引っ込む、のかまぼこ傾向ミキシング具合がグッド)。
モチアンの特にスネアと金物の鳴り。低音~高音のバランスもメリハリがあり、大変に音の締まりのよいバランスである。
またライブ録音特有の「観客のグラスの音」や「地下鉄が走る音」「拍手」「話し声」もうっすらではあるが聞こえ、多少なりライブ録音という臨場感がある。
一方でSACDの方は特に高域がきれいに、キラキラときらめくように広がる。まさにSACD特有の音場の広さを感じる。
1曲目「My Foolish Heart」の冒頭のピアノの直後にドラムのシンバルの「シャラララララ~」と鳴り響く感じは正直、レコより上だ。
一方で、空間的な広がりがありすぎるのではないか?という感もある。決してまとまりがないわけではないが、トリオアンサンブルの押し出してくる演奏の力強さはオリジナルモノ盤よりは感じられない。
もちろん、モノラル盤とステレオミックス版SACDを比較しているので音場の広さと音圧の強さはトレードオフ、ともとれる。ただ、SACD盤もオリジナルモノに比べれば音圧が弱いというだけで、単体で見れば十分なレベルでの力強い押出だと思う。
また当然ながら音はノイズなくクリアでダイナミックレンジも広い。レコードの持つレトロ感あふれる音には遠く、極めて現代的な響きである。正直、昨年録音した?っていってもバレないんじゃないかというくらい新鮮な音がする。
そして一番オリジナルと違うなぁと感じるのは、前述の「観客の音」も鮮明に入っている点。非常にリアルにかつ明確に演奏中に聞こえてくる。臨場感あふれるのはSACDのほうだ。
比較② 「状態」(個体差や盤質の優劣)
比較2:状態→個体差が少なく保存収納しやすいSACDが◎
これは当然ながら個体差が少なく、保存もし易いSACDに軍配。
オリジナルLPは製造からすでに60年を経過しているため、現存物には状態の優劣も差異もある。
私が持っているオリジナル盤は購入時のアテンションが「盤質:EX-」であった。針飛びは無いものの、経年による盤スレ、及び若干の盤の歪みがある。超音波洗浄機で何度か洗浄したが、どうしても取れないチリパチノイズも残っている。
対してSACDは近年制作、リマスターされているわけなのでレコードのようなチリパチノイズは皆無。その名の通りコンパクトに収納可能で盤スレ等もレコードに比べれば起こりにくい。
比較③ 「値段」(価格、入手のしやすさも含める)
比較3:値段→圧倒的にSACD◎
私が入手したオリジナルのモノラルLP盤は2018年の秋頃購入、盤質EX-にて¥69,000。
近年のアナログブームに伴う価格高騰、加えてJAZZならず音楽ファン屈指の大名盤、経年による現存数の現象、これらが相まって盤質が上等なものであればおそらく20万前後はすると推察する。
余談だが、昨年(2022年)とあるレコード店にて28万の値がついているのをみた(笑)購入時はまさに清水の舞台〜である
一方、アナログプロダクションのSACDはすでに生産終了であるが、中古市場で比較的手に入りやすい(在庫あり)。
価格も7〜8,000円前後、と、普通のCDよりはお高めではあるが、オリジナルのLP盤に比べればかなりのお買い得かと思う。
盤スペックについて
ここで、私が所有しているオリジナル盤とSACDの現物のスペックを。
【LP】Bill Evans Trio 「Waltz For Debby」US ORIGINAL MONO (RIVERSIDE)
私の所有盤はジャケットも傷みがあり外装的にはVGレベル。だが正直外装はあまり気にしないほうなので肝心の盤がしっかりしていればOKと考えている。盤にはやはり経年のスレや軽い傷があるが、それでも針飛びせずにしっかり鳴ってくれる。
【SACD】Bill Evans Trio 「Walts For Debby」 (ANALOGUE PRODUCTIONS)
この盤は「さすがSACD!」といわんばかりに、音場が広い。SACDの中には「これ、ほんとにSACDなの?ふつーのCDとどこが違うの?」と思うものもあるが、アナログプロダクションのリマスターだけあって各楽器のバランス、ライブ録音ならではの臨場感の残し方など完璧な仕上げである。
ハイレゾ・高音質というのを体験するのにはうってつけだと思う。
個人的にアナログプロダクションのマスタリングはMFSL(Mobile Fidelity Sound Lab)よりも好みだ。
余談だが、どうにもMFSLのリマスターは毎回「のっぺり」とした平べったさを感じるのであまり好みではない。
それでもやはり迷ってしまうあなたに
さて、ここまでいろいろと比較してきた。
最後にオリジナル盤LPとSACD、それぞれどのような方にオススメか?個人的な見解を記載したいと思う。
オリジナル盤LPがおすすめの人
- SACDプレイヤーはもっていないし、今後も購入の予定はない方
- オリジナル盤至上主義の方(…実は私も結構こっちよりの傾向あります笑)
- 当時の雰囲気を当時の機材で楽しみたい方
SACDがおすすめの人
- SACDプレーヤーはもう持っている、あるいは購入予定がある方
- オリジナル盤はほしいが予算的にちょっと…でもこの大名盤を最高の音質で楽しみたい方
- レコードは好きだが保管や手入れを考えると億劫な気持ちになりやすい
迷ったらアナプロのSACD!
いかがだっただろうか。
もちろん上記のレビューはあくまで個人的見解である。お使いの機材等でもまた違った聞こえ方になるであろうし、例えば「カートリッジをモノラル、あるいはMCに替えたらどうだ?」とか、別の視点ではまた違うレビューになるかもしれない。
ただ、誰もが同じように体験できるであろう、という「再現性」の部分においてはやはりこの作品のアナプロSACDは秀でていると思う。
ある程度のコストにて、大変きれいな音質で、世紀の大名盤を楽しみたいという方にはこのSACDをおすすめしたいと思う。
ご一読、ありがとうございました。
余談①:収録曲
SACDはオリジナル盤LP(6曲)よりも4曲多く、合計10曲収録されている。
うち3曲は本編のテイク違い。
で、SACDを推す理由にもし付け加えるならば、このCDのラストを飾る10曲目の「PORGY(I LOVES YOU, PORGY」、この曲が最高なんです
美しすぎる。
余談②:ノーマルCDで素晴らしいものはないか?
実はこのビクターから出ていたCD、よりオリジナル盤に忠実な音である。
音場はSACDよりも狭く、ステレオ盤ではあるのだが、オリジナルLPモノラル盤の音に近いものを感じる。
現在販売されてはいないようだが、帯裏の藤岡さんのコメント「この音、アナログでっせ。ホンマニ!」はホンマでっせw
なお、このCDにもSACD同様4曲のボーナストラックが収録されており、PORGYももちろん入っている.
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