今日は「Sunday at the Village Vanguard」を取り上げたい。
満を持してのエヴァンストリオ、ラファロ在籍時の3部作のうちの2つ目だ。なおジャズ界の至宝「Waltz for Debby」についてはSACDとオリジナル盤の比較を過去に行っている。ありがたいことに常に私のブログで読まれている記事の最上位に位置している。まだ未読の方はこちらも読んでいただきたい。
1961年6月25日、ニューヨークのジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」にて、ビル・エヴァンス・トリオは歴史的な演奏を行った。このライブの一部が、同年リリースされた『Sunday at the Village Vanguard』に収められている。ジャズファンならずともその名を知る名盤だ。
今回は、このアルバムの音源比較を行い、オリジナル盤(モノラル)とAAD仕様のCD音源の違いを探りながら、どちらの音源がどのような点で優れているのかを具体的に解説していきたい。なお、Waltz~同様こちらもSACDと比較するのがよいのかもしれないが、残念ながら所有していないためAADのCDとの比較となった。先に言っておくとAADのCDも相当に音が良いので比較対象として十分とも思う。
「Sunday at the Village Vanguard」について
発売年:1961年
レーベル:Riverside (RLP 376)
パーソネル:
- Bill Evans – piano
- Scott LaFaro – bass
- Paul Motian – drums
収録曲:
- Gloria’s Step (Take 2)
- My Man’s Gone Now
- Solar
- Alice in Wonderland (Take 2)
- All of You (Take 2)
- Jade Visions (Take 2)
このアルバムは、ジャズの歴史における金字塔的存在であり、特にラファロのベースとエヴァンスのピアノが一体となった相互作用が非常に評価されている。発売から9日後、ラファロは交通事故で命を落としてしまい、彼の遺作としても深い意味を持つアルバムだ。
USオリジナル・モノ盤
ではさっそく、私が所有しているレコードを見ていこう。

ジャケットは表面と裏面で材質が違う。表はエンボス的な加工がなされていて、裏はツルッとした触感である。

こちらが裏ジャケ。
さて気になる価格だが、2017年頃に7万円ほどで手に入れた。盤質はEX‐というところか。特に傷もなく瑕疵もない。当時は非常に高価に感じたが、現在たまに見る店頭価格を見るとつくづくあのときに買っておいてよかったなと思う。
「青大」と「青小」の見分け方

リバーサイド・レーベルのオリジナル盤には、ラベルが「青大」と「青小」の2種類に分かれる。これらの違いは、レコードコレクターにとって非常に重要だ。
- 青大:ディープグルーブ(DG)がおおまか「RIVERSIDE」と表記したロゴ四角囲いの中に収まっていれば通称「青大」となる。私の所有盤もおおまかDGが囲いの内側なので青大、である。その他表記のロゴが大きく、住所表記(New York)がラベル下部に記載されている。アルバム名タイトル表記も大きめ。
- 青小:青大に比べ、DGがロゴ四角囲いを大きく超えている。すなわちDGの円の中に四角が収まっていると「青小」となる。タイトル表記も青大に比べて小さく、住所表記がない場合もあり。
これらのラベルの違いは、初版かどうかを判断するための手がかりとなり、特にコレクターズアイテムとして重要視される。
オリジナル盤 vs. AAD CD: 音質比較
オリジナル盤の音は、CDとは明らかに異なる魅力を持っている。CDは確かに音場がクリアで整理されており、全体的にシャープで高解像度な音が特徴だ。特にピアノの高音が鮮明に再生され、初心者にも聴きやすいという利点がある。
一方、オリジナル盤は、音場に「空気感」や「温かみ」が感じられる。特にラファロのベースは、CD版では分離しすぎて孤立して聴こえることがあるが、オリジナル盤ではピアノとドラムとの自然な交わりが感じられる。音が一体となっており、より生々しく、演奏者たちのやりとりが目の前で繰り広げられているかのような臨場感が味わえる。
例えば、「My Man’s Gone Now」では、オリジナル盤のベースのアタック音が生き生きとしており、木の皮を叩いたような質感がある。ドラムも音の粒立ちが際立っており、空間に溶け込むような印象を与える。
AAD CD版の良さ

CDの音源にはもちろん素晴らしい点も多い。音の輝き、特にピアノの高音の明確さはCDの方が際立っており、演奏の細かいニュアンスが聴き取りやすくなる。また、音場が整理されているため、ジャズ初心者でも聴きやすく、日常的に楽しむためには非常に優れたフォーマットだ。

上記写真のように「AAD」と表記があるものは初期フォーマットのCDに多い。このAADとは、「A=アナログ録音、A=アナログミックスダウン・編集、D=デジタルリマスタリング」という意味である。アナログ方式を採用しているからか、最近のDDD、やADD、よりも音が太く濃密な印象を個人的には持っている。昔はチープな音にも感じられたが、それは多分機材のせいだ。ある程度プレイヤーやアンプなどにコストを投下すればいい音で鳴る。特にスイングアーム形式の古いCDプレイヤーで鳴らすとレコードに遜色のないくらいいい音が得られることが多い。しかも中古市場でも安価で手に入る。おすすめである。
では今回の比較の場合はどうか。AADのCDも非常によく鳴っており、及第点以上であることは確かだ。しかし残念ながらオリジナル盤のような「音の厚み」や「響きの余韻」といった部分は、どうしてもCDでは表現しきれないことが多い。そのため、音楽の深みや空気感を重視するならば、オリジナル盤が優れている。
トリオの「会話」〜伝説のライブの一片
ビル・エヴァンス・トリオ(1959~1961年)は、従来のピアノ主導のジャズトリオとは一線を画していた。特にラファロのベースは単なる伴奏ではなく、エヴァンスと対等に音楽の会話を交わしていた。この密接なインタープレイが、オリジナル盤のアナログ特有の音場にぴったり合っており、まるでジャズクラブの一角にいるかのような臨場感を感じさせる。
このトリオの対話を完全に感じ取るためには、オリジナル盤での聴取が最も適している。特にラファロのベースとエヴァンスのピアノが互いに絡み合う様子は、アナログ特有の温かい音でこそ最大限に活きてくる。
地味さの中に潜む凄味、そしてオリジナル盤の意義
『Sunday at the Village Vanguard』は、華やかなソロ演奏や技巧的な展開が少ないため、一見地味に感じられるかもしれない。しかし、その静かな音楽には、聴く者の感性を深く刺激する凄味がある。オリジナル盤で聴くことによって、その音の「質量」や「余韻」をしっかりと感じ取ることができる。特にベースの響きが床を伝い、ドラムのブラシが空気を切り、ピアノの音が壁に反響するような感覚は、CDではなかなか味わえないものだ。
音楽が「居る」という感覚を味わうには、やはりオリジナル盤が最適だ。音が一体となり、演奏者たちの気配が感じられる瞬間こそが、このアルバムの魅力であり、オリジナル盤で聴く最大の意義だ。
イチオシ曲:Gloria’s Step
「Gloria’s Step」は、このアルバムの中でも最もラファロのベースが際立つ曲だ。
ベースがテーマを奏で、エヴァンスのピアノがそれに絡むという、まるでチェスのような緻密なやり取りが展開される。特に、このTake 2では、モチアンのシンバルが空間を豊かに彩り、静かな緊張感を生んでいる。ラファロの早すぎた死を思うと、この演奏が彼の遺作としての深い意味を持っていることを感じずにはいられない。
総括:音楽を「体験」するということ
『Sunday at the Village Vanguard』をモノラルのUSオリジナル盤で聴くことは、ただ音楽を聴くだけではなく、その時代や場所の空気、演奏者たちの「気配」を体感することだ。オリジナル盤での聴取こそが、このアルバムの真の魅力を引き出す。
地味で繊細ながらも奥深い『Sunday at the Village Vanguard』は、単なる音楽ではなく、時間と空間を超えた「体験」として味わうべきものだ。
いつもはCDもそこそこいい、という結論なのだが、今回は違う。手に入れられるならオリジナル盤をぜひ手に入れて聞いてみてほしい。おすすめする。
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