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【聴き比べ】John Coltrane 「Love Supreme」(至上の愛) はモノラル・ステレオ、どっちのオリジナル盤LPを買うべきか問題を考える

Disk Review
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レコマニア永遠の課題、モノラルVSステレオ問題

50〜60年代に発売されたレコードの「モノラル」「ステレオ」、果たしてどっちがいいのか問題について今日は書いていきたい。

この問題はオーディオファイル(いわゆるオーオタ)や、特にジャズ蒐集家などでよく問題になる。が、決して「問題」という難儀を抱えたもの、というよりは「よく出てきがちな話題」くらいのもんだ。

なお、結論から言うと結局は好みなので、ぶっちゃけ「どっちもいい」、あるいはどちらも同じ音源ではあるので「どちらでもいい」ということになる。良し悪しは最後は聞く人の主観であることを先に申し述べておく。

なぜ「問題」となるのか?

「ステレオ」「モノラル」どっちを買ったらいいんだ?とアタマを悩ませるのは中古盤購入の際にお目にかかることが多い。なぜなら最近新譜として出ているレコードは基本的にステレオ仕様である。よっぽど昔の作品のリプレス商品でもなければモノラルに出会うことはおそらく無い(最近のアーティストでモノラル仕様がデフォルトなのはクロマニヨンズのLPくらいかと思う)。なのでこの問題にぶつかるのは基本中古市場である。

とても平たくいうと、中古市場では「モノラル」のほうが「ステレオ」より高価な場合が多い。特にブルーノートの1500番台やビートルズのオリジナル作品のレコード、ブルーズレーベル「Chess」の初期などは一部例外もあるが基本モノラルのほうが同時代発売の同タイトルステレオ盤よりも高価な傾向にある。

そうすると、初めてその作品に触れる(購入する)場合、「このアルバムはモノラルとステレオ、どっちを買った方がいいの?」という問いにぶつかる。これが今回の「問題」と呼んでいる部分である。

確かにモノラルのほうが総じて音が凝縮している感はある。ステレオが音を左右に分離させているのに対し、モノラルは全音を一つの穴から絞り出しているわけで、音圧という面では濃ゆいものを感じる。一方で音場の広さという点ではステレオに軍配が上がる。当然左右のスピーカーから楽器の音を分離調整してバランスよく聞こえるように作られている。聞いていてよりクリアに聞こえるのはステレオであろう。

(中には「左右泣き別れミックス」の異名を持つ、ステレオ定位が定まっていない時代に作られた聞くに堪えないステレオ作品もあるが…)

50〜60年代のアーティストの代表的な作品、いわゆる「名盤」、これのオリジナル盤(書籍で言うところの初版)なんてものは大変に高価である。1枚でウン万円〜二桁万円、もあるような世界である。はじめの一歩ですでに清水の舞台落下傘というパターンが非常に多い。

大好きなアーティスト・作品だからレコードで、オリジナル盤でほしい!と意気揚々とレコ屋に行って棚(餌箱)を漁っていたら、お目当て作品の「MONO」「STEREO」どっちも在庫があったとしよう。お値段はどちらもなかなか高価である。モノラル、ステレオ、それぞれ若干の値段の差はあるが、いずれにしても高価なのでどっちも購入するのはためらわれる…

このシチュエーションで勃発するのが「モノラル・ステレオ、どっちがいいんだ」、この問題なのだ。

Yes、聴き比べ

モノラル・ステレオ問題の答えについて。もちろん個別作品によって違うわけなので、すべてのサンプルを実験することは不可能だ。

そこで今回は私が過去人身御供とあいなってステレオ/モノラルの両方を購入した、いわゆる名盤と言われるもののオリジナル盤を比較していこうというものである。

誰かが続いて他の作品でもやってくれれば、いつかはネット上に巨大なデータベースができるだろう、そう願って、とりあえず手の届く範囲から始めてみる。取り上げる作品は、手元にあったこの作品だ。

コルトレーンの名盤、「Love Supreme」

今回取り上げる作品はJohn Coltraneの「Love Supreme」(邦題:至上の愛)

言わずもがな、ジャズの大名盤である。

正直、ジャズを聞かない方にとってこのアルバムはとっつきやすいか?と言われるとそうでもない。いや、素晴らしい演奏なんですけどね。世間一般が想像するようなジャズ、多分に偏見混じりで言えば、ルパン三世のBGMで流れていそうなBarの音楽、的なものではない。かけ離れている。

そんな作品が名盤なのか?という疑問もあるかもしれない。歴史的な意味合いとしての名盤認定なのであろうが、好き嫌いは分かれるところだろう。

ちなみに私はコルトレーンのアルバムではこれが実は一番好きだ
「Ballads」「Blue Train」「Ascension」「Giant Step」どれも好みなのであるが、一番はこの「Love Supreme」。和訳もいいよね、「至上の愛」。そのまんまですがね。黄金のカルテット最高の名演だと思う。

この記事は2021年にこのアルバムのライブ盤がVerveから新発売された際に、あまりに嬉しかったの「A Love Supreme」のモノラル・ステレオのオリジナル盤聞き比べをやった記録として残していたものを編集したものだ。

A Love Supreme: Live In Seattle
<使用機材について>
今回はモノラル・ステレオの聞き分けなので、モノラルにはオルトフォンの [CG25Di MK2]、ステレオには同じくオルトフォンの [SPU #1e] を使用。

一応同じカートリッジメーカーで揃えることでばらつきを無くした風に設定した。(あくまで”ふう”だけどね)昇圧トランスはアンプ内蔵のものでインビータンス調整を行った。

タンテ:Denon DP-80、トーンアーム:SME3012R、アンプ:サンスイAU-D907G extra、スピーカー:JBL L88 NOVA、カートリッジ:モノ=オルトフォン[CG25Di MK2] / ステレオ=オルトフォン[SPU #1e]

【MONO】A Love Supreme / US ORIGINAL 

ジャケット・ラベル(MONO)

まずはモノラル盤。ジャケットから。

右上に規格番号とともに「MONO」と記載されていてわかりやすい。

続いてレーベルをば。

マト盤は規格番号のあとにA/Bがついただけ。またデッドワックス部分にもちろん機械打ちの「VANGELDER」刻印あり。(なお反射してうまく写せなかったので画像は割愛)

レーベル面は俗に言う「艶あり・ABC-PARAMOUNT」レーベルである。

ちなみにインパルスレーベルのオリジナル盤の見分け方ですが、色々調べてみるとどうやら以下にまとまるようだ。

  • アルバム番号:A1~A32→オレンジ・艶あり・「AM-PAR」表示
  • アルバム番号A33~A100→オレンジ・艶あり・「ABC-PARAMOUNT」表示

ということで、このモノ盤はオリジナル版と推測される(買うときディスクユニオンの値段ラベルでもオリジナルって表記されてたのでオリジナルだろうと思う。信じるものは救われる)

サウンド(MONO)

音のほうはやはり「ジャズはモノラルだ!」というオデオマニアの方の意見に激しく同意したくなるほどの音圧・勢い。一言でいうと「パワフル」、これに尽きる。

もう、コルトレーンのサックスが象の鼻息か!?カバの吐息か!?と思うくらい激しくスピーカーから吹き出てくる。ドラムとベースのリズムセクションはひとかたまりのリズム爆弾、かんしゃく玉が身体にあたって破裂したかのような、まさに「炸裂!」という言葉がふさわしい弾けっぷり
その「鼻息」と「炸裂」の間を縫うように走るピアノは曲芸師のような身軽さで音の波を見事にかき分けていく。まるで渋滞を整理するかごとく、規律をもらたしている。

モノラルだからこそ、ワンスピーカーから出てくる音の塊にメリハリを見事につける役割がマッコイに委ねられているなと。さすがマッコイ!

音圧重視のモノラル盤は音の塊が体にぶつかって揺さぶられる、まさに「ジャズ聴いてるな!」感が凄まじい。

【STEREO】 A Love Supreme / US ORIGINAL 

ジャケット・ラベル(STEREO)

続いてはステレオ盤。

こちらも右上にSTEREO表記あり(画像拡大割愛)。A-77の規格番号はモノラルと変わらない。

つづいてレーベル面

残念ながらステレオ盤は「艶なし」レーベル。

これをオリジナルと呼んでいいのか…とも思うが、やはりHMVレコード(だったと思う)で購入の際に「オリジナル盤」と書かれてたので信じることにする。マト刻印はAS-77 A/B とモノラルのマトにステレオを示す「S」が追加されたもの、かつモノラル同様RVG刻印もある。

レーベル最下部のABC以降の表記がモノラルと異なり、「A PRODUCT OF ABC RECORDS INC」となっているので、67年後期のプレスと思われる。レーベル面の紙の素材と記載文字が若干ちがいますが、マトは同じですので、「初版ではないがプレス自体はマト盤より初期プレス同様」と判断できるのでオリジナル盤と表記して問題ないかと思う。

※参考までに各レーベルの判別についてはこちらを参考にさせていただいております。ご興味ある方はぜひ見てみてください。

サウンド(STEREO)

さて肝心の音だが、楽器の出音がきれいに分離していてアンサンブルの解像度が高い

音圧はモノラルに比べると弱いのは否めないが、その分サックス・ピアノ・ベース・ドラムのバランス、音声が広い。特にドラムの金物と太鼓の分離、シャランシャラン鳴るシンバルに絡みつくキックとスネア!もうたまらん!!!

目の前にエルヴィンがいるみたいな音が。思わず「エルヴィン !」と叫びたくなるような解像度の高さである。高域の響きがモノラルよりもクリアでシャリシャリいうんですよ。モコモコしてないの。

ベースの押し出しはモノ盤にくらべれば弱いが、その分1音1音の粒立ちがはっきりしている。

特にB2の導入部、慎み深いあの最終楽章には押し出しの強いモノラル盤よりもむしろステレオがよい

まとめ:さっきも言った通り「どっちもいい!」

一言でいうと、まぁやる前からわかってたが「どちらにもいいところがたくさんある!」ってことですな(笑)。

総じてモノラル盤はパワーがあって演奏者が「俺が俺が!」といい意味で先手を取ろうとしている押し出しの強さが魅力。ジャズはモノラル!という方々もこの音圧とパワーが推しポイントだろう。確かにスピーカーで大きな音で鳴らすと体全体が揺さぶられるのだ。

一方ステレオ盤は、アルバムを一つの作品として聞かせるべくバランスを最重要視した、抑制の効いた整合感が素晴らしい。モノラルにはないクリアな美しさと音場の広さを感じる。

「おいおい、それじゃ問題の解決になってないじゃないか。どっちか一つしか買えないとしたら、どうすんだ?」

この究極の問い、私はこの作品に関しては「ステレオ」、と答えたい。

この作品「至上の愛」について、私はクラシックの交響曲のような「アルバム全曲を通して1曲、1作品である」というコルトレーンの美意識とコンセプトを勝手に感じている。その点で大事にすべきなのはやはり全体のバランスではないだろうかと思っている。その点でステレオに軍配を上げたい。

インパルス盤は他の作品も含めステレオ盤にも定評があるが、特にこの「至上の愛」はステレオ盤のほうがモノラルよりも完成度が高いと私は思っている。

本作にジャズらしさを見出すならモノラル、それは間違いないが、コルトレーンが目指したその先、ジャズを包含してその先に向かおうとしている姿勢はむしろ、ステレオでこそ体感できると思っている。

ご一読ありがとうございました。

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