Bill Evans『You Must Believe in Spring』USオリジナル盤の魅力──レコード音質の違いを徹底解説

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前回の「ライブ・イン・トーキョー」に引き続き、今回もビル・エヴァンスだ。

春のビル・エヴァンス、といえばそう、このアルバムを忘れるわけには行かない。その名も「You Must Believe in Spring」である。

ビル・エヴァンスの生前未発表のアルバム『You Must Believe in Spring』は、彼の芸術性の極致を示す作品のひとつだ。本作はエヴァンスが最愛の妻エレインを亡くした後に録音され、彼の晩年の心情が深く刻み込まれたアルバムでもある。繊細なタッチと豊かな表現力が際立つこの作品は、彼のキャリアの中でも特別な位置を占めるものだ。今回は、このアルバムのUSオリジナル盤レコードを聴くことで得られた体験について綴っていきたい。

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『You Must Believe in Spring』の基本情報

  • 発売年:1981年(録音は1977年8月)
  • レーベル:Warner Bros.
  • パーソネル:
    • ビル・エヴァンス(ピアノ)
    • エディ・ゴメス(ベース)
    • エリオット・ジグムンド(ドラムス)

収録曲

  1. B Minor Waltz (For Ellaine)
  2. You Must Believe in Spring
  3. Gary’s Theme
  4. We Will Meet Again (For Harry)
  5. The Peacocks
  6. Sometime Ago
  7. Theme from M*A*S*H (aka Suicide Is Painless)

1970年代後半のビル・エヴァンス・トリオ

1970年代後半のビル・エヴァンス・トリオは、彼のキャリアのなかでも特筆すべき時期にあたる。エヴァンスはそれまで長らくベーシストのエディ・ゴメスと共演を重ね、彼の音楽に新たな側面を加えてきた。このアルバムでも、ゴメスの表現力豊かなベースがエヴァンスの繊細なピアノと絡み合い、極上のハーモニーを生み出している。エリオット・ジグムンドのドラムも流麗かつ的確で、エヴァンスの音楽を包み込むように支えている。

この時期のエヴァンスは、以前のトリオと比べてもより情感を重視した演奏を展開している。特にペダルの使い方やフレージングの間合いが深まり、より詩的で内省的な響きを持つようになった。また、エヴァンス自身の精神状態もこのアルバムに強く反映されており、聴き手の心に静かに染み込むような音楽となっている。

USオリジナル盤レコードについて

それでは所有しているUSオリジナル盤について見ていこう。

水墨画のようなイラストが印象的なジャケット。中古でおそらく3500円くらいで購入したのだと淡く記憶している。ジャケット表面に値札シールを剥がしたような跡がありシミになって残っている。また経年によるレコード収納跡がでている。個人的には味、と捉えているので全く気にはしていない。

裏ジャケ。3人の写真にはおそらくヤケとおもわれる褪色がみられる。左側にはパーソネル、曲リスト、制作陣の名前が書いてあり、最後にビル・ザヴァスキー氏によるビル・エヴァンスへの献辞が記載されている。翻訳してみたのでこちらに引用記載しておく。

エレジー(ビル・エヴァンスに捧げる、1929-1980)

あなたの手が奏でる音楽はもうここにはない。 それでも音楽は私の耳に響き、私の心を揺さぶる。 そして、私はまだあなたの前にいると 感じる。あなたは鍵盤の上で自分の影の上にかがみ込む。鍵盤はあなたの触れ方に震え、結晶化し、水は集中せざるを得なくなる。瞑想では、あなたは目を閉じて自分自身をよりはっきりと見る。

今、あなたは音の源を知り、骨と筋肉が浸透する要素を知り、美しさを取り戻そうと願っています。手の届か ないところにあるものを捕まえようと願って、あなたは指先で狩りをしました。

あなたが見つけた私の人生、そして あなたの手を通して旅してきた他の多くの人生。雨音を聞くように、目を閉じてより深く、私たちは音符ごとにあなたの足跡をたどりました。私たちはあなたの手が触れる音の頂きの前に立っていました。あなたはまばゆい太陽の輝き、そして影を私達にもたらしてくれる。苦い人生をより甘く味わいながら私達はそれを愉しみました。

レーベル面は白ラベルのワーナーロゴだ。この頃からだんだんレコードの重量が軽くなっていくのだが、本作はまだ標準的な厚みである。90年代近くのペラペラに近い作りではないので安心だ。

ピアノの打鍵の強弱が際立つ

本作をUSオリジナル盤レコードで聴く最大のメリットは、ピアノの打鍵の強弱が克明に表現される点だ。久しぶりにレコードで聞いてみたが、やはりこの鮮烈なピアノ音はレコードならではであるし、エヴァンス作品の中でも屈指の音質の良さだと思う。

エヴァンスの演奏は、弱音の美しさと強音の鋭さを行き来しながら、独特の陰影を生み出す。CDやストリーミング音源では、そのニュアンスがどうしても薄れがちだが、オリジナル盤のアナログ音源では、まるでエヴァンスが目の前で演奏しているかのような生々しさ、息遣いまで感じられるほど生々しい音である。

また、ピアノの残響の美しさも特筆すべきポイントだ。デジタル音源ではカットされがちな微細な余韻が、アナログ盤では自然に空間に溶け込み、音楽がより立体的に感じられる。まるでピアノの音が空気に染み込むように広がるのだ。

デジタル音源と比較すると、USオリジナル盤レコードは音の奥行きや空間の広がりに優れ、よりナチュラルな音像を楽しむことができる。特にピアノの打鍵の強弱や響きのニュアンスが際立ち、演奏の微細な表現が生々しく伝わる。

ベースとドラムの一体感

エディ・ゴメスのベースは、このアルバムにおいて特にリリカルで、まるで歌うかのようなフレージングが印象的だ。レコード音源では、このベースの響きがより自然に、そして深みをもって伝わる。サブスク音源では低域が圧縮されてしまいがちだが、オリジナル盤では弦の振動や指の動きまでが感じ取れるほどリアルだ。

また、エリオット・ジグムンドのドラムも、ブラシワークの繊細さがレコードでは際立つ。ハイハットの微妙なニュアンスやシンバルの余韻がしっかりと聞こえ、空間の奥行きを豊かに感じられる。

イチオシ曲:「You Must Believe in Spring」

本作のタイトル曲である「You Must Believe in Spring」は、アルバムの象徴ともいえる楽曲だ。エヴァンスはこの曲で、まるで静かな祈りを捧げるかのように美しい旋律を奏でる。

この曲をUSオリジナル盤で聴いたとき、ピアノの透明感が際立っていることに驚かされた。デジタル音源ではやや硬く聴こえることがある高音域も、レコードではふんわりと空間に溶け込むように広がる。ピアノの響きが呼吸をするように自然で、音の温かみがひしひしと伝わってくる。

レコードで聴く『You Must Believe in Spring』の価値

このアルバムは、エヴァンスにとって非常に私的で内省的な作品でもある。最愛の妻エレインを失い、深い悲しみの中で録音された本作は、静謐な哀しみと希望が共存する奇跡のような一枚だ。その感情の機微を感じ取るには、やはりオリジナル盤の持つ音の深みが必要不可欠だ。

アナログ盤の持つ有機的なサウンドは、音楽の中に潜む感情のうねりをより強く伝えてくれる。デジタル音源では捉えきれない、音と音の間の空間の豊かさが、レコードでははっきりと感じられるのだ。

エヴァンスの音楽に真剣に向き合いたいなら、ぜひUSオリジナル盤での視聴を試みてほしい。それは単なる音楽鑑賞ではなく、彼の魂と対話するような、かけがえのない体験になるはずだ。そして、その音が響く瞬間こそが、唯一無二の時間となるだろう。

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